ーOOO-新宿冒険譚

 ココだけの話ですが、来週富士山に登ろうと思っているのですよ。
 7月1日は富士山の山開きと言うことなので、友人の某さんとともに前日の夜から登って、頂上でご来光を眺めようって寸法。
 ワタクシは登山初心者。当然、装備とか持ってない。なので登山用品専門店で必要な装備を下見することに。
お茶の水とかに登山用品のお店がいっぱいあるじゃないですか? あと、秋葉原だとニッピンとか。あのへんだとついでに中古PCとか見に行ったりできて良くないですか?」
「いやー、ソレはまずいでしょ…。お金がバンバン飛んでいっちゃいますよ…」


 ということで、新宿駅の新南口近くにある登山用品専門店”L-Breath”というお店に行ってきたのですよ。地上8階、地下1階というフロア全部が登山用品。
「まずは最上階まで行って、そこから下りながらアレコレ見ていきましょう」
ということで、とりあえず最上階へ。
 何の気なしにエレベーターを使わずに階段でのぼったら、ハアハアいって息が切れてくる。最上階までいったら息も絶え絶え、二人でゼエゼエいってしまった。
「いやー、もう若くはないですね…」
「そうです、ワレワレは中高年なんですよ…」
「いや、それ、中高年じゃなくて、中年って言おうよ…」
「いいえ! ワレワレはもはや、ハッキリと中高年なのですッ!」


 とりあえずアレコレ見て、富士登山初心者のためのパンフレットをいただいて、お店を後に。
 そっから某さんが合流、旧コマ劇場方向へ歩き、280円居酒屋で飲み会を。「いやー、こんな明るい時間から飲むと、悪いことしてる感じでイイねぇ」 登山とは全く関係ない話で盛り上がりました。
 しかし制限時間制だったので、2時間で追い出されてしまいます。
 んで「2次会行こうか?」
 ふらふらとアテもなく歌舞伎町を漂流し始めるワレワレ。


 信号待ちで立ち止まっていると、そこに
「居酒屋いかがっスかー? 飲み放題2000円ポッキリですよー」
 若くてイケメンのあんちゃんが、客引きにくる。
 何気なくワタシがつぶやく。
「いやー、2000円は高いよ…」
「え、いくらならイイっスか?」
「ここは新宿だから相場わかんないけど、でも2時間飲み放題で1500円くらいが普通じゃないかな…」
「じゃあ、飲み放題1500円で!」
「それじゃ普通じゃーん、って感じだよねー」
「んー、じゃあですね…」
 イケメンさんは財布を取り出し、中から何件かのお店のチラシを取りだした。その奥に、1万円札がのぞく。
「おっ、万札じゃーん。おにいさん、もうかってるネ?」
「いやー、まあまあ、あはははは」
 そういいながら財布から取り出したあちこちの居酒屋のチラシを手に、客引きのおにーちゃんはアレコレ何軒ものお店を比べ始める。どこのお店なら一番値引きが出来るかを吟味しているようだ。
「じゃあ、このお店なら1300円! 飲み放題1300円! これでどうですか、お客さんッ!!」
 もうこのへんになるとワレワレ3人の総力戦になってくる。
「いや、今オレ達、もう飲んできたところだから、1300円分とか飲めないし…。もう飲み放題に魅力無いっていうか…」
「あー、もうっ!」
 頭をかきむしるイケメンさん。
「じゃあ、じゃあですね! ここで、この場で、皆さんにワタシが100円ずつ渡します! そしたら、飲み放題1300円から100円引いたのと同じ、1200円です! どうでしょう! ご検討くださいっ!」
「えー、ソレ、お通しとかテーブルチャージが妙に高い、とかじゃないの?」
「そんなことないです! 普通です! 大丈夫です! 400円です!(←このへんうろおぼえです)」
「んじゃー、ここで決めましょうか?」
「ありがとうございます!」
 その場で居酒屋さんに予約の電話をかけ始めるイケメンさん。
「えっとですね、じゃあですね、この場でまず皆さんから2000円いただきます。で、この2000円は、お店でお返ししますから」
 よくわかんないけどここで2000円取っておけば、お客さんはバックレないで居酒屋に行くだろう…という保証金のようなものなのかなー、と思った。
「ではみなさんにボクから100円ずつ…、あっ!」
 イケメンさんはすっとんきょうな声を出した。
「ごめんなさい、ボク、今日、小銭入れ持ってくるの忘れちゃって…みなさんに100円ずつお渡しできないです…」
 イケメンさんは謝りながら、ちょっとおどけてみせた。
「ふーん、そっかー。んじゃー、オレ達が今ココで700円渡すから、1000円ちょうだいよ。そしたら3人に100円払ったのと同じコトになるから」
「えっ!ああ、そうですね…」
 イケメンさんはビビりながら、財布の中を見る。
「あっ!ボク、今日、1000円札も切らしちゃってて…」
「んじゃーわかった!さっきお兄さんが1万円札を持ってるのは見たから、ココでオレ達が9700円渡す! そしたら1万円札をくれ! それでいいから」
 イケメンさんは、うわーマジかよコイツら300円のためにソコまでする?みたいな顔をしたのだが、ワレワレはそういう部分はキッチリやる。
 3人の財布の中身をあわせて9700円かきあつめ、無念そうなイケメン君から1万円札をむしりとることに成功した。
 ややションボリしたお兄さんから1万円札とチラシを受け取り、
「じゃあ、このチラシのおみせに行ってください…。えっと、行き先は…」
 最初飲み放題2000円とフッかけてきたのを1200円にまで値引きした…という喜びに浸りながら、意気揚々と紹介された店に向かった。


 その店は、スゴく遠くて、エレベーターが少ないビルの最上階にあり、しかもその階の一番奥のフロアにあった。なるほど、これくらい不便だと、客引きを出さないとお客さんが来てくれないよね…という感じのお店。
 そして、そのお店には先客がいた。大学のサークルみたいな感じで、すごい声がデカくてうるさかった。あまりのうるささに、そのお店でワレワレはまともな会話をすることが出来ないほどだった。
 うるさい。せまい。しかも、料理もそんなに美味しくなかった。
 試合に勝って、勝負に負けた…。そんな言葉が思い浮かんだ。
 我々3人の二次会はまったく話の弾まない状態になり、串切りにした山盛りキャベツをひたすらショリショリと、ウサギのように食べ続けるコトしかできなかった。