ーOOO-ANAとボーイング787ドリームライナーは、航空業界を大きく変える
先日、ボーイング社の最新型ジェット旅客機「ボーイング787ドリームライナー」が日本に初飛来し、そのお披露目イベントが行われました。会場となった羽田空港のANA整備場には取材陣だけでなく、多くの787開発関係者が詰めかけ、B787の完成を喜びました。
ボーイング社による21世紀初の新型機と言うことで、B787はまったくあたらしい技術で設計・生産することにチャレンジしました。このためB787の開発はトラブル続きで、完成は遅れに遅れ、こうしてやっと日本初お目見えにこぎ着けることができたのです。
このボーイング787の開発にローンチカスタマーとして関わってきたANAの伊藤社長からは、会見の席でこんな発言がありました。
「『難産の子ほど、かわいい』と言う言葉がありますが、この787の開発に関わった関係者はみな、同じ気持ちではないでしょうか?」
そしてボーイング社のCEO、ジム・オルゴー氏は、こんなコメントを残しています。
「2年前のアメリカでのB787初飛行の時に、私はこんなことを言いました。遠い将来、『この日から大きく航空業界が変わった』、と言われるのではないでしょうか、と」
さて、ANAとボーイングが共同開発したB787ドリームライナーは、なぜ「難産」だったんでしょうか?
そして、この787は、どんなふうに航空業界を変えていくのでしょうか?
今回はそこいらへんのレポートをお届けします。
ちょっと長くなるので、先にまとめを書きますね。
- ボーイング787は、航空業界を大きく変える
詳しい説明は、以下続きをどうぞ。
飛行機の作り方が大きく変化する
ではまず、航空業界の「大きな変化」って、なんでしょう?
その一つは「787から飛行機の作り方が大きく変化した」、ということです。
そして、それこそが787が「難産」だった理由でもあるのです。
ボディの大半が、炭素繊維に
作り方の大きな変化の一つ目は、ボディの大半を炭素繊維…カーボンコンポジットで作ったことです。
従来は、アルミや鉄で機体を形作っていました。たとえばボディは6枚の鉄板をつなぎ合わせて、その部分を組み合わせて大きな丸い胴体を作り上げていました。
しかし、787ではボディを巨大で丸い一つのパーツとして作り上げることに成功しました。
これにより、様々なメリットが産まれます。
まず、カーボンだから軽く、かつ強度が高いと言うこと。アルミの半分ほどの重量なので、飛行機の燃費が良くなります。
鉄板でボディを作った場合は、さびや腐食の心配がありました。しかし、カーボンならばそのような心配はありません。機体の整備の手間と費用を減らします。このメンテナンスコストの低さは、運賃の低価格化に繋がりますから、私たちのような乗客の立場から見てもメリットです。
細かな部品を組み合わせて巨大なボディを作れば、細かい誤差が積みかさなっていきます。
しかし、ひとかたまりの大きなパーツとして形作られた787のボディは、誤差やゆがみが少なくなりますし、パーツの強度が高まります。
B787は、部品の35%が日本製である
作り方に関するもう一つの大きな変化が、部品を外部に発注したことです。
ボーイング社は従来は多くの部品を自社で生産していましたが、この787からは、多くの部品を世界各国の会社に生産委託しています。
ちなみに、787の多くのパーツは、日本の企業によって生産されています。
たとえば、機体の50%の重量を占める炭素繊維の複合素材は、東レの製品です。
富士重工・川崎重工・三菱重工は、胴体や主翼など機体の主要な部分の35%を作っています。また、三菱重工と川崎重工はロールスロイスのパートナーでもあり、787のエンジンにも貢献しています。
ジャムコとパナソニックは787のインテリアを。そしてタイヤはブリジストン製です。
日本は、ボーイング787の第2のふるさとと言っても過言ではないでしょう。
だから今回の日本初飛来には多くの関係者が詰めかけ、互いに787の完成を喜び合っていた、というわけなのでした。
パーツと一言で呼ぶにはあまりにも巨大な787の胴体パーツ。
これらは、787「ドリーム・ライナー」のパーツを運搬するための超巨大な専用機「ドリーム・リフター」を使って、世界各国から部品を集め、アメリカのボーイング社の工場に直接運搬します。
先にも述べたように、787では飛行機の作り方が大きく変わりました。
ボディの大半を、カーボンで形作ったこと。
そして外部のメーカーで主要なパーツを生産し、それを組み立てる手法をとったこと。
様々な部分があまりにも従来の飛行機と違ったために、開発は予想外のトラブル続きで困難を極め、生産は遅れに遅れました。
しかし見てください、この美しいボディを。
従来の飛行機とはまるで違う、塗装の表面を研ぎ出したかのような、塗面が濡れているかのような、つややかなボディ。
このボディの美しさこそが、全体に継ぎ目のすくない巨大なカーボンで作られた飛行機である証なのです。
IT化により安全性やメンテナンス性が高まる
ANAは開発に参加する中で、航空会社の立場から様々な意見を出したそうです。
たとえば、整備性について。
これは発電機の場合ですが、機内には2つの発電機があるそうです。
もしもそれぞれの周波数のズレが大きくなったら、故障する可能性がある。だから、それを飛行機が監視して、壊れそうになったらアラートを出すようにしたらどうか、と。
飛行機自身が故障を事前に感知するシステムです。
そしてコクピット。
メーターやスイッチのたぐいがグッと少なくなり、パイロットの眼前のヘッドアップディスプレイに情報が集約して表示されるようになっています。
最新の技術を使って表示するからソレで良し…、とせずに、ANAのパイロットさんは実際に使ってみて、他機種に比べて違和感がないように、誰が操縦しても違和感がないようにするために、パイロットの立場からさまざまな意見を出したと言うことです。
またコクピット以外の部分について。
飛行機の各部にはセンサーが仕掛けてあり、整備員は無線LANで飛行機の情報を得て、ペーパーレスの整備マニュアルを見ながら、すみやかにメンテナンスが行えるようになっているのだそうです。
ボーイング787は、安全性やメンテナンス性の高い機体と言えそうです。
飛行機の旅に対するイメージが変わる
こうして出来上がったボーイング787は、航空会社にとってメリットの多い機体であると言えそうです。
でもそれだけじゃないんですよ。
お客さんのボクたちにも、メリットがいっぱいあるんです。
ボーイング787がもたらす航空業界の「大きな変化」とは、「飛行機の旅に対するイメージが変わる」、ということでもあるのです。
B787は乗り心地が良い
先にも述べたように、787のボディは硬いカーボンで形作られています。
この丈夫さのために乗り心地がアップし、操縦安定性も向上…って、コレはパイロットじゃないとわからないですよね。
ボディが丈夫なため、機内の気圧を高く保つことが可能です。だから、耳がキーンとすることはありません。
湿度も保たれているので、ノドが渇いたり、肌がガサガサになることもないんだそうです。
ほかにも、さまざまなハイテク装備がなされています。
ボディが丈夫なので、従来の飛行機よりも窓を25%大きく広くしてあるそうです。窓にはカーテンの代わりに、透明度を変えるスイッチが付いてます。
機内の照明には、LEDランプが使われています。これは省電力でエコですよね。それと同時に、ガラスを使った蛍光灯と違って、機内で割れる危険性がありません。
トイレにはなんと、ウォシュレットが標準装備なんだそうですよ。コレ、外国のお客さんはビックリするでしょうね。なんとも日本的なおもてなしの装備ですよね。ちなみに、787の開発が遅れたために、ウォシュレットは先にボーイング777のオプション装備としてお目見えしたのだそうです。「航空機初!」の先を越されてしまったことを、開発担当者さんは悔しがっておりました。
「飛行機の旅に対するイメージが変わる」…それは、B787は乗り心地が良くなる、ということなのです。
B787は新しい航空ルートを開拓する
また、ボーイング787が燃費の良い中型機であることは、燃料代以外のメリットもあるのです。
大型機のボーイング747なら、エンジンが4発あるし、たくさんの人が乗せられるし、燃料もたくさん乗せられるから、より遠くへ飛ぶことが可能です。東京からニューヨークへの直行便だって可能です。
しかし、大型機のB747は、燃費が大変悪かったのです。また、乗客がたくさん乗せられると言うことは、利欲客数の多い路線しか飛ばせませんし、逆に利用客数の少ない路線をB747で飛ばした場合は空席が多くなって、あっというまに赤字になってしまいます。
ボーイング787は、燃費がよい中型機です。
従来は747のような大型機でしか行けなかったニューヨーク直行便も、燃費の良い787なら可能です。
また、乗客があまり見込まれない路線でも、客席数がもともと少ないB787なら飛ばせます。大型機のB747なら不採算でも、中型機のB787なら黒字になる…そんな路線が開ける可能性があります。
たとえば、日本の地方都市から海外の地方都市に行く場合。いっかい地方空港から羽田に出てきて、そこから乗りかえて海外へ、さらにそこから乗り換えて目的地の地方都市へ。乗り換えがめんどくさくて、でもコレってありがちな話ですよね?
ところがB787なら、ある程度の乗客数が見込めれば、直行便を就航させることが可能です。
燃費がよい中型機のB787なら、新しい航空ルートを開拓する可能性があるんです。しかも燃費が良いから、運賃も安くなる可能性があります。
これも、「飛行機の旅に対するイメージが変わる」っていうことなんですね。
『難産の子ほど、かわいい』
ところで、旅客航空機の進化の方向は、基本的には「速く」「大きく」「より遠くへ」の3つしかないんだそうです。
だけど「速さ」で世界一だったコンコルドは、燃費があまりにも悪かったし、騒音がヒドかったので、後継機が作られることもなく引退していきました。
「大きい」飛行機は、燃料タンクが大きくなるので「より遠くへ」飛ぶことが可能です。
だけど大きい飛行機は燃費が悪いですし、大きすぎれば着陸できる飛行場が限られてきます。地方のちいさな空港には飛ばせません。
ANAは、中型で燃費の良い飛行機を欲していました。
時代がエコだから…というのもありますし、先に述べたように燃費の良い中型機なら、新しい航空路線を切り開くことが可能だからです。
そんなとき、ボーイング社が開発コートネーム「7E7」と呼ばれるジェット機を発表しました。それはさまざまな新技術を投入した中型で燃費が良い旅客機の計画でした。
そこでANAは、世界で最初にこの飛行機を購入する事を決めました。
このときからANAはボーイング787ドリームライナーのローンチパートナーとなり、ボーイング社と共に開発を進めることとなったのです。
ANAは航空会社の立場からさまざまな意見を出し、787はそれが取り入れられていきました。
たとえばそれは、先に述べた発電機の話。あるいは、コクピットの操縦性。
またあるときは、コクピットの窓にワイパーを付けるようにと意見したそうです。っていうか、「いままでの航空機ってワイパー付いてなかったの?」って感じなのですが、ANAの強い粘りに、コクピットのワイパーは全てのB787に標準装備されることとなりました。
ANAが使いやすい飛行機…ということは、航空会社の立場から見て使いやすい飛行機が完成した、と言うことです。
ボーイング社にはすでに600機以上の注文が入っていて、ボーイング787ドリームライナーは発売前から大ヒットとなっているんだそうですよ。
新しい技術をたくさん詰め込んで作られた、ボーイング787ドリームライナー。
残念なことに様々なトラブルが起こり、開発スケジュールがどんどん遅れてしまいました。
しかしようやく、この日本初飛来にこぎ着けました。
ANAの伊藤社長は、『難産の子ほど、かわいい』と言いました。
ANAの開発担当さんは、787に関するANAのスペシャルサイトの中で、こんなことを語っています。
「初めてお客様を乗せて飛んで、何も問題なく、ノーマルオペレーションって聞いたときは、多分感動すると思います」
そしてとうとう、ボーイング787ドリームライナーは、私たちの前に姿を現したのです。
ノーマルオペレーション。
何も問題なく。