ーOOO-観客の期待を裏切る映画「ツリー・オブ・ライフ」

 テレンス・マリック監督は寡作で知られ、「伝説の監督」とも呼ばれています。彼の最新作「ツリー・オブ・ライフ」は、今年のカンヌ国際映画祭では賛否両論だったのですが、最高賞のパルム・ドールを受賞しました。
 そんな「問題作」を、日本公開より一足早く試写会で見てまいりましたですよ。

 
 力こそが全てだと信じる厳格な父と、純粋すぎるほどの愛に満ちた母親。そんな両親の狭間で、いつも葛藤していた…。


 「父さん、あの頃の僕は、あなたが嫌いだった…」


 2011年8月12日(金)全国ロードショー
(C) 2010. Cottonwood Pictures, LLC. All rights reserved.

 ところで、この夏の映画はカーズ2があり、トランスフォーマー3があり、コクリコ坂やハリーポッターなどなど沢山の大作映画が公開されていますよね。この夏はいい映画がいっぱいあるじゃないですか?
 だけど「そういうのじゃない映画が見たいなぁ」というアナタ、本作を見てみてはいかがでしょうか。
 この「ツリー・オブ・ライフ」は見る者の期待を裏切りつづける映画というか、この映画自体の感想や印象をコトバで表現することを拒否するかのような、そんな映画でした。


 テレンス・マリック監督は「作品がすべてを代弁する」をモットーとしていて、カンヌ映画祭には出席せず、映画に関するコメントやインタビューを残していないそうです。
 カンヌでは賛否両論だったという点からも分かるように、見る人によって感想や印象が大きく異なりそうです。公開後にどんな感想が出るのか楽しみです。
 実際、映画のチラシの裏に書いてあった各界著名人によるコメントは見事にバラバラで、何がなにやらよく分からなかったのですが、映画を見たあとだとそのバラバラさに納得がいきました。


 んで、さっき「見る者の期待を裏切りつづける映画」と書いたのですが、それってどういうことなのかを説明しますね。
 ディズニー配給の映画と言うことでファミリー向けを期待したのですが、そういう映画ではありません。どちらかというと単館上映向けの作品ではないかと感じました。
 主演のブラッド・ピットショーン・ペンの演技を期待すると、登場シーンが少ないので裏切られます。いわゆるブラピファン向けの映画ではない、と。
 父と子のドラマを期待していると、地球上の神秘的な光景がスクリーンに映し出されます。あれっ、親子のストーリーは?
 大自然の驚異がスクリーンに繰り広げられ、「自然は素晴らしいなぁ」と思っていると、CGが挿入されます。うわっ、裏切られた!
 命の誕生のシーンに感動していると、残酷なシーンが挿入されます。うわっ、感動にひたっているわけにもいかないのね…。
 そうか、これは「ツリー・オブ・ライフ」、生命の樹の物語。地球上で過去から現代、そして未来へと続いていく壮大な命の連鎖の物語なんだな…と思っていると、ブラピとショーン・ペンの父子の物語へと戻っていく。ええええっ!


 で、「見る者の期待を裏切りつづける映画」なんだけど、だけど共感できるシーンもたくさんある映画で、そこらへんが不思議な映画です。
 ストーリーを積み重ねていくのではなくて、日常の一コマの断片を切り取ってつなげたような映画でした。
 ストーリーではなくて日常の一コマの積み重ねなので、その中には誰が見ても「ああ、自分も似たようなことあったなぁ」と思えるシーンがあるはず。で、主人公に感情移入しているうちに、とうてい共感できないシーンに引きずり込まれます。あなたの期待は裏切られ続けるのです。


 ところでこの映画のキャッチコピーは
「父さん、あの頃の僕はあなたが嫌いだった」
なのですが、これって言い換えると
「父さん、今の僕はあなたが好きだ」
となるし、あるいは
「母さん、あの頃の僕はあなたが好きだった」
ともなるわけで、反抗期と性の目覚めが同時にやってくる思春期に思いをはせました。
 あと映画から離れて「生命の樹」から連想したのですが、旧約聖書に出てくる「禁断の樹の実を食べる」という行為は、父なる神に背くという反抗期と性の目覚めがいっぺんにやってくるという意味で、思春期のおとずれみたいなものだったのかもなぁ、とか思いました。


 映画「ツリー・オブ・ライフ」は来週末、2011年8月12日(金)から全国ロードショーです。
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