ーOOO-高3の夏の特別さ…「スピカ」

 こないだ羽海野チカさんの初期短編集「スピカ」が出たので、なにげに買ったのですが、ちょっちツボで大変良かった。もーグッと来た。
 特に表題作の「スピカ」が個人的にはツボでしたな。
 どれくらいツボだったかというと、電車の中で読んでたら、その「電車の中で読んでる」っていう状況がもったいなくなってきて、駅を出てスタバで落ち着いてライムミントフラペチーノなんか飲みつつ読みほしたくらい良かったんですよ!
 ネタバレとかしたくないので、気になるヒトは今すぐ本屋にGO!


 とはいえ、ちょっとぐらいは作品の紹介をしたいんですよね。
 「スピカ」は30ページ足らずの短編だから、ストーリーには触れないように。
 主人公は高校三年生の野球部員と、同じクラスに転校してきた女の子。そんな二人の夏休み前の様子を描いているんですな。


 しかし今思えば、高3の夏って特別だったですよね−。
 なにしろ自分の進路を決めなきゃいけない。
 たとえば運動部だったら、これが最後の試合。受験に、あるいは就職に。人生の舵を大きく切ったら、その夏を境に自分が打ち込んできたスポーツをやめてしまうのだ。おそらく、一生。
 自分が高校生だった頃は、その特別さや大事さに気づきもしなかったけれど。
 自分が鈍感だったがゆえに、そういう特別な高3の夏の気配に、どうもワタシはツーンと来てしまうのですなー。


 んで、以下余談。お話変わって。
 池袋の西武百貨店羽海野チカさんの原画展が開かれていたので、見てきたですよ。
 貴重な生原稿を直接見るチャンスでソレはソレで貴重だったんですが、ワタシとしては原稿のコンテというか、ネームを見れたのが良かったですな。
 A4くらいの紙に8ページ分書いてありました。なるほど、たしかにこういうふうに書いてあると、見通しが良いなぁ。
 マンガって、2ページ見開きの単位で目に飛び込んで来るものじゃないですか? それを圧縮してコンテに8ページ詰め込むことで、その2ページのひとまとまりを全体の中の1シーンとして捉えやすい、というかんじ。
 その初稿を切り刻んで、書き直して、順番を入れ替えて、ぎゅーっと圧縮する。そうやって出来たスキマに、またビッチリと書き込んでいく。
 物語を整理しながら圧縮して、どんどん詰め込んでいく。これを最低6回繰り返すんだそうです。
 なるほどねー、参考になるなぁ…いや、オレ、マンガ家じゃないけどさ。どういう風に実生活に役立てればいいのか、見当も付かないけれど。
 で、そういうふうにブラッシュアップされていくコンテは、一稿づつ凄みを増していく。見ていてビリビリする。
 削りながら「もっとわかりやすく」「余計なモノを落とす」という作業を。
 そして「もっと印象的な絵を」「もっとメッセージを」。いろいろなものをグイグイ詰め込んでいく。
 羽海野チカさんの最新作「3月のライオン」では、巻末の「作者からのメッセージ」の部分を読むと、作品作りの中で羽海野センセイが自分の身を削っている様子がうかがえるんですけど、いや、この制作スタイルは自分の身が削れるわ。そういう覚悟で作品を作っているのが伝わってくる展示会でした。


 で、「スピカ」の巻末の作者からのメッセージを読んだとき、なんで今このタイミングで羽海野センセイが初期短編集を発売したのか、その理由がわかった瞬間、ワタシはまたグッときてしまったのでした。
 コレ、読むなら夏ですよ。ぜひ手にとってみてください。