ーOOO-イタリアオペラは、寅さんだった!? … はじめてのオペラ

 え、なんでオペラを見に行ったのか、って?
 話はお正月にさかのぼります。
 古くからの友人から年賀状が来まして。「美味しいあんこが食べたいです〜」って書き添えてあったから、ワタシは年賀状代わりにあんこを送りつけるというテロ行為に。
 で、恐縮した友人が「じゃあ、こんどオペラに出るんで、ぜひ見に来ませんか?」
 ということで今日、見に行ってきたのが「オペラ彩 第28回定期公演 『アドリアーナ・ルクヴルール』」だったのです。

 で、オペラが無事に終わったところで友達を捕まえて、「お疲れさま会」ということで居酒屋に移動して、ちょっくら話をうかがってきたですよ。

イタリアオペラは寅さんだった?

ー いやいやどーもお疲れさまです。
「いやいやわざわざ遠くまで来てもらっちゃって、すいません」
ー 実は開演時間に遅刻しちゃって。で、「出番はちょっとで、1幕目」みたいな話だったから「間に合わなかった…」と思ったら、3幕目にもちゃんと出てきたんで良かったです
「わっはっは。そりゃ良かったです」
ー 「アドリアーナ・ルクヴルール」って全然知らなかったから、ネットで検索してあらすじを読んだりして、ちょっと下調べしたんですよ−。だけど「超有名」みたいな曲がないみたいだし、楽しめるかなーと思って不安だったんだけど、面白かったですよ。
「そうそう、知らなくても大丈夫ですよ。ストーリーを一字一句暗記していて「次はごひいきのソリストが歌うぞ」って部分を楽しみにするオペラ通みたいな人もいますけど。でも、オペラをぜんぜん知らないフツーの人でも、けっこう楽しめるんですよ」
ー 初めての人には初めての人なりの楽しみ方があるし、詳しい人には詳しい人の楽しみ方がある、と。
「そうですそうです。それで、オペラのストーリーって結構おきまりのパターンがあって、けっこう「ワンパターンじゃねえか!」ってのがあるんですよね」
ー というと?
「まあだいたい、最後の4幕目は寝室で、死んじゃって終わるとか」
ー あぁ、今回の作品もそうでしたねぇ
「で、「イタリアオペラって、結局ワンパターンだよねぇ…」みたいな話を楽屋でしてたんだけど、そしたら合唱の指揮者のセンセイが「うん、そうだよー」って。「アレは結局、寅さんなんだよ」って」
ー イタリアオペラは、寅さんだったの!?
「なんつーか、寅さんって、最初のシーンは夢からはじまって、最後はフラレちゃって次の街に旅立つっていう、永遠のワンパターンで」
ー はいはいはいはい。
「ワンパターンなんだけど、それぞれの話には違いがあって、その部分を楽しむんだ、と。イタリアオペラも同じで、パターンは同じなんだけど、その中で違いを楽しむんだ、と」
ー あー。
「だから、「だいたいこういう感じ」みたいなパターンがわかってくると、ぜんぜん有名じゃない知らないオペラでも「ああ、この作品はこうなるのかー」っていう違いが楽しめたりするんですよね」
ー なるほど。
「もっと有名な、演じてて楽しい作品がやりたいなーなんて、僕らもちょっと思うんですけど。ただ、ウチの団の偉いヒトは「そういう有名なのは、もうやったでしょ!」みたいな感じで」
ー ストイックな方向に突き詰めるというか
「なんていうか、「オペラらしいオペラ」って言ったら、イメージする作為品っていろいろあると思うんですけど、ウチのセンセイの場合は「イタリアオペラらしいイタリアオペラ」なんですよね」
ー 寅さんみたいな
「そう、ワンパターンなというか、オペラらしい「型」みたいなものがあって、そこにキッチリとハマる作品が好きみたいで、ま、ウチの団はそういう団なんですよね」

オペラにおける、字幕版と日本語吹き替え版の違いとは

ー 舞台を見てたら、左右に日本語の字幕が出る装置がボンボーンっと置いてあって「おおっ、こりゃスゲェ、本気だ!」と思ったですよ。
「いやー、あの装置は偉大なんですよ! お芝居をやってる最中に、お客さんがアレをチラっと見ることで、ほんの数秒だけど、間が持つって言うか」
ー ちょっと一瞬、気がそれるっていうか?
「パッと切り替わると「アレを読まなきゃ!」って気になるでしょう? アレを読むことで、お客さんが眠らないで済む、という」
ー あー、はいはい!
「お金のない団体だとアレが置けないから、イタリア語じゃなくて日本語で演じたりするんですよ。そうするとお客さんに緊張感が無くなっちゃうから、客席のアッチコッチでこっくりこっくり舟を漕いだりして、けっこう悲惨なんですよねー」

オペラを演じる大変さ

ー こう、「オペラって総合芸術だ」みたいな話があるじゃないですか。お芝居があって、生のオーケストラがあって、合唱があって…
「はいはいはい」
ー で、そしたら今回のオペラでは、3幕目とかにバレエ団の人たちが出てきて、バレエを踊ったじゃないですか? だからこの作品はもう、総合芸術の上をいく、てんこ盛りみたいな作品だなーって思って。
「いやー、ホント今回は参加人数が多かったから大変だったですね」
ー やっぱり練習が大変だった?
「あ、自分としては今回は合唱として参加する部分がちょっとだったから、そういう意味ではたいしたことなかったですけどね。ただ、全員が通しで併せて練習するっていうのが少なくて、「はい、ここのシーンね」って言われて、ポッといきなり併せて…みたいなことが多くて、これはこれで大変だったですね」
ー ふつうの作品だと、どれくらい練習するの?
「あー、トゥーランドットのときは大変だったですよ! 歌だけでも3ヶ月ぐらい練習したんですよ。歌詞はそんなになかったんだけど、主演の人たちが歌ってる最中に「そうだ!そうだ!」みたいな合いの手を入れる部分がいっぱいあってですねぇ」
ー あー、演じてる最中に気が抜けないんだ?
「そうそうそうそう。で、歌を覚えてからようやく振り付けの練習に入るんですよー! 途中で「ちょっとでも動いたら殺す」みたいなシーンがあって、そこでは全員動きを止めなきゃいけないんだけど、中腰の立て膝のまんまズーッと我慢しなくちゃいけなくて、ホントにこれがもう大変だったですよ」
ー しかもお芝居と違ってオペラだから、歌わなきゃいけないし
「そりゃぁもう大変ですよ! で、練習中に音楽的な理由から指揮者の指示で振り付けが変わったり。ようやく覚えたかなーと思ったら、舞台の演出的な面から舞台監督が振り付けを変えたりして。オレたちゃどっちにすればいいんだー! みたいな」
ー わっはっはっは
「お客さんから見れば一瞬で終わっちゃうかもしれないけれど、舞台裏はね…。まあ、長いこと、イロイロと大変なわけですよ」


 そういって、友人はウーロン茶を飲みました。
 翌日も本番なので、いまは禁酒中なんだそうです。
「本番の後、打ち上げで飲むのが楽しみなんですよね」
 そんなことを言いながら、友人は帰っていったのでした。