ーOOO-30年後の「トヨタ86」

 
 今日はトヨタの新型スポーツカー「トヨタ86」の発表会が行われるということで、ワタクシちょっくら幕張まで行ってきたのですよ。


 ところでクルマ好きの間で「ハチロク」と言えば「AE86」のことなのです。
 「AE86」のホントの車種名は「スプリンタートレノ/カローラレビン」です。でも、クルマはモデルチェンジするとガラッと変わってしまうモノなので、クルマ好きの間では車検証上の車両型式番号で車種を呼び表すモノなのです。
 1983年の発売から30年近くたつのですが、手頃な値段、走りの面白さ、また頭文字Dの主人公が乗っているなどなどの理由から、長い間クルマ好きの間でAE86は「ハチロク」の名で親しまれています。


 で、その親しみのある愛称を使った新しいスポーツカーがトヨタから出る、というのがちょっと複雑な思いなんですな。
 これから誰かが「ハチロク」って言ったら、それは「AE86」のことを指すのか? それとも「新しい86」のことを指すのか?
 人気のある名前にあやかって「ポッ」と使って欲しくなかったなぁ…、みたいな。


 で、実際の発表会の模様はUSTREAMに上がっているので、こちらをどうぞ。

 トヨタ豊田章男社長のスピーチと、そのあとの司会の赤坂泰彦さんとのトーク部分では、実は後方に大きなプロンプターがあって、でかでかとカンペが映し出されていたんです、が。
 しかし、豊田社長はその原稿を読み上げるのではなく、自分の言葉で「トヨタ86」への想いを語っていました。
 その「86」にかける意気込みにグッと来ました。


 ワタシが今回のイベントで一番驚かされたのは、元マツダ社員でロードスターRX-7の開発主査を務め、現在は山口東京理科大学の教授である、貴島孝雄さんがスピーチに登壇したことです(さっきのUSTREAMだと58分あたりから)。

 ええええっ! トヨタのイベントに、なんで元マツダの貴島さんがっ!?
 そもそもの発端は、2007年のこと。トヨタの86開発主査である多田さんが、まだマツダで現役だった貴島さんに電話をかけたことだった、と言います。

トヨタの多田ですけれども、スポーツカーについてお話をうかがいたいので、広島にうかがって良いでしょうか?」
っていうお電話をいただきまして、ちょっと耳を疑ったんですけども、
「スポーツカーのお話、大歓迎ですよ」
と言いましたら、多田さんが営業の方とお見えになりまして。いきなり
「貴島さん、スポーツカーの経営承認がなかなかとれないんだけれども、マツダさんはどうされてますか?」
っていう風なことを聞かれまして、ビックリしましてね。
「いやー、スポーツカーは、マツダにおいては、カーメーカーのプライドとエンジニアのパッションで決めますよ。収益は、そのあと。エンジニアが頑張って、収益の上がるクルマに仕上げるんですよ」
っていうお話をしたんですね。そしたら「エーッ」という感じで、少し驚いてですね。たぶん「なんと無茶な商品計画を…」と思われたんじゃないでしょうか。
 そうして2009年の東京モーターショ−でですね、多田さんがニコニコしてワタシのところに来られましてですね、
「貴島さん、社長直轄の組織を作ってもらいました」
って、喜んでおっしゃいましてね。
 これで大丈夫だ、86は生まれるなぁ、と思いました。
 ま、そのような経過がありましたもんですから、元マツダの関係者でありながら、本当にうれしく思っている次第であります。

 個人的に思うのは、貴島さんが登場したことはサプライズだったけれども、貴島さんが登場したことでトヨタ86の目指す方向性が見えてきた気がしました。
 スポーツカーなんだけど、過度に馬力や速さを追わず、ちょっと乗っただけで楽しいようなクルマに。
 そして、末永く愛されるようなクルマに。
 どうやらそういうことみたいなんですね。


 そのあと貴島さんは、ニッポンのスポーツカー文化を元気にしようじゃないか、というお話を。
 前段でプロドライバーの脇坂寿一さんが「86は、15年先を見据えたクルマに」と発言したのを受けて、貴島さんは「20年先を見据えたクルマを作ろう」と発言。
「20年先に、レストアしたクルマたちが集まるようなイメージを持って」と続けました。
 いま発売されるこのクルマを、新車で買うお客さんがいるわけですけど。
 何年かすれば、中古車になってから買うお客さんがいるわけで。
 それがずっとずーっと続いていって、ボロくなってもレストアしながら乗り続けられていくようなクルマを目指そう、ということですよね。
 で、それって、貴島さんが手がけたロードスターはそういうクルマになっているんですよね。ずっとずーっと愛され続けるようなクルマに。
 そして、「AE86」…ハチロクは、20年どころじゃない、30年愛され続けている偉大な名車なのです。


 こんどの「トヨタ86」は、AE86の偉大さを知りながら、偉大な「86」の名前を襲名しました。
 現在の社会状況を考えると、スポーツカーがポンポン売れる時代じゃないから、その船出はきびしい物になりそうだけど。
 あたらしい「ハチロク」が20年後、そして30年後、どんなふうになっていくのかが楽しみなワタクシなのでした。