ーOOO-覆水盆に

 ガシャーン!と音がしたときには、もう遅かった。
 
 東京ゲームショー2011で買ってきたマグカップが砕け散っていたのだった。
「すいません! センパイが大事にしていた記念のマグカップが、こんなことに…」
 声を震わせてあやまる後輩。
 いいってことよ。
 かたちあるもの、いつかは壊れる。
「いやー、でも、でも…」
 後輩クンがあまりにもオロオロするので、「お気に入りのカップだったのは確かだけど、そうか、オレ、そんなに大事そうにこのカップを使っていたように見えてたのか…」と、逆に驚かされもした。


 ところでワタシは、マグカップが割れたときに、いつかやってみたいと思っていたことがあった。
 それは、「金継ぎ」だ。
 金継ぎとは、焼き物が割れたときに補修する技法だ。割れ目の部分に漆を塗って接着し、金粉を振って継ぎ目を金色に仕上げる。
 
 意外にパーツは残っていて、組み上げることは可能だ。
 でも、落下して床の出っ張りにあたった部分が、粉々にくだけて、穴になっている。
 
 この穴の部分はどう直したらいいんだろう?


 ネットでアレコレ調べてみた。
 まず、どれほど頑張って補修したとしても、マグカップを元のように使うことは不可能のようだ。熱いお湯を注ぐと、温度によってマグカップと補修部分の膨張に差が出て、最終的にひび割れてしまうからだ。


 それから、バラバラに砕けたものを直すのは、不可能ではないけれど困難なようだ。
 おおきくまっぷたつとか、3つに割れたもの。あるいは、ヒビが入ったけどまだ割れていないものを直すことが多いようだ。
 金継ぎによって直しやすいのは、花器・飾り皿など、食用には使わないもの。あるいは、お茶席用の茶碗。これは底の部分に少量のお湯を注ぐだけだから、他の部分が割れても直しやすい。


 金継ぎの仕方にも流儀があって、漆にご飯粒や小麦粉を加えて混ぜ合わせて接着する流儀もあれば、近代的なエポキシ系接着剤でくっつける流儀もある。
 ラクチンなのは接着剤だけど、食用に使うには有毒物質の溶けだしが心配だ。
 かといって、ご飯粒や小麦粉では、あからさまに耐久性が落ちそうだ。


 とにかく、頑張って補修したところで、マグカップとして元のように使うのは困難だ。
 金継ぎしたら、観賞用にするとか、花瓶にするとか。そういう使い方をすることになるだろう。
 手間をかけて、あのマグカップのかけらを必死に組み合わせて、花瓶にするのか?
 んー、考えちゃいますな−。
 などと言いつつ、金継ぎの仕方をアレコレ調べるワタクシなのでした。