ーOOO-相撲とパンとスカイツリー

 会社で昼ごはんを食べながら「ねえねえ、こないだのNHKスカイツリーの特番、見た?」と、パートのおばちゃんが言う。
「見た」、「見てない」、「どんなだった?」
 みんないっせいに言うので、にぎやかだ。
「あんなにおっきいのに、ものすごい精密な作業で作ったんですってよ」
「そうそう、なんか、太陽にあっためられた方の鉄が延びるから、朝と夕方ではタワーの傾きが右と左で大きく違うんですって」
「へーえ、細かいのねー」
「おっきいからって、おおざっぱに作ったわけじゃないのねー」
「やっぱしそういう細かい作業は、日本人の伝統っていうか、お家芸みたいなトコがあるわよねー」
「あ、それって、日本人はお箸でご飯を食べるから、らしいわよ。小さい頃から、二本の箸の握り方を教えて、それでご飯を食べるわけじゃない?」
「そうよね、考えてみれば外国だとスプーンとかフォークとか」
「パンなんかだと、手づかみで食べちゃったりして」
「いかにも、おおざっぱよねー」


 ところでつい先頃のニュースによれば、日本人の食料品支出金額で見たばあい、パンが初めてコメを逆転したということだ。

 あくまでも「購入金額ベースで」という点に注意したいニュースではあるのだが。
 しかし国民一人あたりの米の消費量も減少を続けていると言うオハナシだ。遠からず、名実共に日本人の主食がパンになる日も遠くないだろう。
 そこで気になるのが、「お箸」の文化だ。
 箸を使うことが日本人の手先の器用さを支えていたとするならば、パンが主食になったらどうなるだろう?


 ここで急に相撲の話にそれるけれど。
 近年の相撲では外国人力士が上位をしめ、日本勢がふるわないのはどうしてか?
 一説によると、それは洋式トイレの普及によるものらしい。
 日本はもともと和式便器の文化で、上でふんばって用を足していたことで足腰が鍛えられていたという。
 それが洋式便器の普及で、腰掛けたまま用を足すようになったことでふんばらなくなり、日本人は全体的に足腰が弱くなったのだ…という説だ。


「洋式トイレの普及で、日本人力士が弱くなる」という説は、笑い話ですまされそうだ。
 では「パン食の普及で箸を使わなくなり、日本人の手先の器用さが失われる」という説はどうだろう? 笑って済ませられるだろうか?
 昔はあたりまえのように「相撲は日本の国技」と言っていたのだが、あっというまに角界は外国人力士に席巻されてしまった。
 ワタシたちは今「日本人は手先が器用」と思っているけれど、食文化が変わったら、数十年単位で「手先が器用」という優位性は失われていく可能性はないか?
 悪い予感が当たらなければよいのだけれど。