ーOOO-押さない、騒がない
ちょっくらデパートでも冷やかそうかねぇと思い、ふらふらと駅直結の3階入り口に吸い込まれるワタクシ。
エレベーター乗り場に行ったら、おばちゃんが二人並んで待っている。
そこにタイミングよくエレベーターがあがってきた。
1、
2、
3、
4…って、おーい!
なんで通り過ぎちゃうの!
「あらやだ、なんで行っちゃったのかしらねぇ」
「おかしいわねぇ」
とブツブツ言うオバチャンたち。
見れば、エレベーターの上ボタンっつーか、呼び出しボタンが押されてない。
ちょ、なんでボタン押して無いんスか! 押さなきゃ止まんないッしょ! ボタンの確認くらいしようよ…と思ったのだが、ボタンが押されていたか確認しないでボーっと待っていたのは自分も同じ。ま、いいか…と思いながら、黙って「上」ボタンを押す。
上の階に行ったエレベーターが降りてきて、私たちの待つ3階で止まった。
その瞬間、オバちゃんは意外にも敏捷な動きでバシッとドアを押さえて、閉まらないようにした!
「ちょっと、これ、上に行くヤツじゃないみたいヨ?」
「イイのよイイのよ、乗っちゃえば折り返しで上がるんだから」
「えー、でもぉ…」
「早く早く!」
二人はモタモタとエレベーターに乗り込み、下っていった。
下まで行ったエレベーターが折り返してきて、ようやくワタシの待つ3階に止まった。
ドアが開けば、当然オバちゃんたちが乗っている。
乗り込んだワタシは行き先のボタンを押そうとして、驚いた。
行き先のボタンが、まったく押されていない!
このエレベーターが1階から3階に上がってきたのは、3階にいるワタシがボタンで呼び出したからだ。オバちゃんたちはボタンを押していないのだから。
そしてオバちゃんたちは、どこに行きたいんだろう…? 不思議に思いながら7階のボタンを押すワタシ。
オバちゃんたちは、だまーってエレベーターに乗り続け、ワタシと一緒に7階で降りたのだった。
このオバちゃんたちは、結局一回もエレベーターのボタンを押していなかったのだった。
しかし、おどろくべきことに、それで十分なんである。
ボタンを押してエレベーターを呼ぶとか、乗ってから降りたい階のボタンを押すとか、そんなことはしなくても大抵の場合、それでうまくいくんである。
あの人達はこの先ずっと、エレベーターのボタンの存在を知らずに暮らしていくのに違いない。