ーOOO-ボクと契約

 仕事から帰ったら、ポストに「本日はお留守のようなので、また参ります」とNHKの集金のヒトの置き手紙があった。
 ああ、これは、いよいよ。
 告白するなら、いままで受信契約をしないで逃げ切ってきたワタクシなのです。
 というか、NHKのヒトがいままでウチに来なかったので、契約するタイミングを失っていたワタクシなのです。
 魔の手がそこまで迫ってきたような思いがしながらも、まあいいやとパソコンなんぞをいじっていたのですが、
「ピンポーン」
 ドアを開けるとそこには、ちっさいのにガタイが良い男の人が立っていた。


 きた。


 で、まあ、断る理由もなかったので、その場で受信契約を済ませることにしたのでした。
 男の人は「寒い中、すいません」とか、いろいろと気をつかってくれて、腰がひくかった。
 帰りがけに男の人は、
「そういえば、八重の桜はご覧になりましたか?」
と言いました。
 いいえ、見てませんけど。
「あの番組は、たいへん皆様に好評でして。明日の夜の第二回から見ても、まだ間に合いますから。ぜひご覧ください」
といって、ちょっとしたパンフレットを置いていってくれたのでした。
 
 なんだかやさしくて親切な人がやってきたし、なんだか腰が低かったし、すごくお得な契約を結んだなぁという思いが、ちょっとした。
 理由は良くわからないけれど、このとき胸にわき上がってきたのは、あたたかい感覚であった。
 そして、こうして人はダマされるのだなぁ、とも思った。