ーOOO-アブトロニック・ドルツ

「夏が近づいてきているわけだよ!」
「はあ」
「夏が来る前に、身体を鍛えなきゃならんわけだよ! 夏が来る前に、腹筋を6つに割らにゃならん!」
「はあ」
「ということで、アブトロニックだ。アブトロニックが問題なんだよ」
「あー、なんかおなかをブルブルさせる、あの深夜の通販番組の…、」
「いやいや、調べてみたらAmazonでいつでも買えるんだよ!」
「はあ。調べたンスか」
アブトロニックの基本セットとかいうのが、9800円するんだよ」
「あー…、安いっツーか、高いっツーか、リアクションに困る系の…」
「ところが、ハイグレードモデルとかいうのが5980円なんだよ!」
「ワーオ! コイツはお買い得だ! って、通販番組なら言っちゃう感じですね…」
「お買い得だろう?」
「ああ、まあ…」
「じゃあ、買え!」
「ええええっ、な、なんでオレが! …ははあ、さては『飽きたところで貸してくれ』とかそういうコトですねッ!?」
「バカだなぁ、そんなはずあるかよ、オマエの汗が染みたアブトロニックなんか使いたくないよ!」
「じゃ、どうして?」
アブトロニックを使うだけで、本当にやせるかどうか、試してみてもらいたいんだよ!」
「自分で買って試せばいいじゃないですか」
「いや、キチンと効果を確かめてから買いたい! じゃないと、お金がもったいないから!」
「そんな虫のいいことを…。そうだ、お金をかけないでヤセたいなら、腹筋とか、背筋とか…」
「オレはそんな正しいことが聞きたいワケじゃ無いんだよ! 汗なんかかきたくないの! 機械を付けるだけで、寝ててもヤセる!そういうのがイイんだよ!」
「ああっ、そんな虫のいいことを…。毎日腹筋したらぜったいヤセるし、腹筋が6つに割れますってマジで」
「いや、アブトロニックを付けておくと、腹筋しなくてもおなかの肉がブルブル震えて、やせるらしいぞ?」
「震えるからヤセるって…。あ、じゃあ、電動歯ブラシのドルツがあるじゃ無いですか? あれを腹の肉に当てて、細かくブルブル震えさせたらヤセるんじゃないですか?」
電動歯ブラシじゃ、やせねーよ!」
「いやいや、世の中いちどは試してみなきゃわかんないですよ?」
「仮にヤセたとして、歯ブラシを当てた部分がピンポイントでへっこむようにヤセるんじゃねーのか?キモいわ! そんなもん!」
「いやいや、当てる場所をビミョーにずらして、こう、ぜい肉にミゾを作るようにして、腹筋が6つに割れたように見えるようにすればいいじゃないですか?」
「その完成形は、腹筋が6つに割れるのとはほど遠い、三段腹がさらにタテに割れたような感じじゃないのか…?」
「っていうか、どうしてそこまで腹筋を6つに割るのにこだわってるんですか?」
「さあ、ソコだよな…。夏が来る前に身体を鍛えなきゃ!と毎年思ってるんだけど、特に鍛えないし、鍛えないからと言ってソンは無いんだよな…」
「はあ」
「『夏が来る前に身体を鍛えなきゃ!』ってヨメに言ったら、『あんた、腹筋を6つに割って、どこに行こうって言うの? 誰に見せようって言うの?』って突っ込まれちゃって。でも、考えてみれば、いまさら鍛えたところで、この年になって鍛えた身体を見せに行く場所なんか無いんだよな…」
「はぁ…」