ーOOO-父さんのスイカ


 ウチの父はあまり趣味が無いヒトなのですが、ここ数年は家庭菜園を地味に続けています。
 たぶん「単なる趣味」じゃなくて、「収穫という実利がある」のがツボなんだと思われ、毎年くりかえしミニトマト、ピーマン、ナスなんかを手堅く育てています。


 しかし今年の夏は、ミニトマト、ピーマン、ナスを育てると同時に、新しいチャレンジとしてスイカを育てることにしたのです。

 七月末のはじめての収穫をワクワクしながら切ってみたら、中はごらんのように見事に真っ白!
「ちょっと収穫を早まっちゃったかな…」と、悲しそうな父。
 いやいや、食べたくて急かしたのはオレだから…。ごめんなさい。
 シャクシャクと食べると、やはり甘みは淡泊でしたが、果実の熟れてない白い部分は「皮」ではなく「実」になっていて、それなりに甘みが感じられました。


 スイカは他にいくつも実をつけていたので、「もっと甘い熟れたヤツが食べたい」と、じっくり育てて次の収穫を待ったのですが。
 時に、カラスにつつかれて台無しになったり。
 はたまた突然の夕立で、畑の地面が水を吸い、それが急にスイカの根に吸い上げられ、急に大量に水分を吸収したスイカが破裂して、ダメになったり。
 逆に、水をやらないようにじっくり育てたら、しぼんだようになってしまったり。
 
 いろいろな苦難を乗り越えて、この一個だけが残ったのです。
「叩いてみると、ポンポンと身の詰まったような音がするんだよナ、けっこう上手くいったんじゃないかな?」
 
 包丁を入れると、パリパリパリーっとヒビが入った!
「実がよく熟してぎっしり詰まってると、切るときにこういうふうに割れるときがあるよな、コレはけっこういいんじゃないか?」
 
 割ってみると、前回よりはよく熟しているけれど、皮の部分が厚めでした。
「うーん、じっくり育てて、これかぁ…」
 ちょっとがっかりする父。


 食べてみると、前回よりは甘くておいしい。
「まあまあ、かな」と、厳しい評価の父。
 いやいや、けっこう美味しいよ!
「やっぱり、売ってるスイカは甘いよな、農家の人たちはプロだよなぁ。ま、シロートが作ったんだから、こんなもんかな」
 と、あくまでも厳しい評価の父だったのですが、自分で作ったスイカを食べるその表情は、ほころんでいたのでした。