ーOOO-なきたいきもち
あれは夏のこと。
朝の5時前には空が白み始め、外でカラスやスズメが鳴き始め、新聞配達のバイクがトゥルルルっとエンジン音を響かせながら「コトン」とポストに新聞を入れる音がする。
そのころ我が家の子ネコの杏ちゃんさんも目を覚まし、ソワソワしはじめる。
野生の血が騒ぐというのもあるだろうけれど、杏ちゃんさんは単に、エサが欲しくて鳴いているらしい。
このとき、にゃあにゃあ鳴いてエサをねだるのがうるさいからって、根負けしてエサをあげてしまうと良くありません。
「ははあ、鳴けばエサがもらえるんだな?」と学習してしまうから、ますます朝からうるさく鳴くようになってしまうものなのです。
にゃあにゃあうるさくとも、飼い主はじっと我慢して、飼い猫に我慢を覚えさせるのが大事なワケなのです。
季節は巡り、いまは冬。
朝の5時は真っ暗で、カラスやスズメも眠っている。新聞配達のバイクは規則正しくやってくるけど、あたりが静かすぎるから、けっこう遠くからやってくる音が聞こえて、なかなか近づいてこない。
それくらい静かな朝なのに、杏ちゃんの野生の血は騒いじゃうわけです。
にゃんにゃんにゃにゃーん、にゃんにゃんにゃにゃーん。
・・・うるさいッ!
最近は鳴く時間がますます早くなってきて、昨日の朝なんか、4時頃から鳴き始めた。
それも、一本調子に泣くのではなくて、様々な泣き方を駆使して、こちらの気を引こうとします。
にゃーん。(エサちょーだい、みたいな感じで)
にゃーん?(ねーえ?みたいな甘える感じで)
にゃーん・・・(さびしそうに)
にゃ・・・(消え入るような声で)
ンニャーッ!(怒ったように)
・・・ニャー(いま怒っちゃってゴメンナサイ的な感じで)
と、まあたいへんにボキャブラリーが豊富で、…っていうかウルサいんですよ、マジで。
だってまだ、朝の4時じゃないっすか! 7時…いや、せめて6時半くらいまで寝かせてくださいよう。オイラが泣きたい気持ちになる。
もうすっかり困ってしまって。
真夜中にポチポチとスマホで「ねこ 夜泣き」みたいなキーワードで検索。
見つけたアドバイスがすごかった。
「『ネコの夜泣きにあなたが悩まされている』ということは、『あなたは十分に睡眠をとっている』ということなのです」
へっ?
「もしもあなたが疲れていて、眠り足りないならば、顔の上でネコが暴れたって目を覚まさないはずです。
ネコの鳴き声程度で目が覚めてしまうということは、あなたが十分に睡眠をとっている証拠なのです」
ひ、ひえええーっ!
それから、
「ネコの鳴き声が近所迷惑になるのでは…と考えるヒトも多いようですが、去勢手術をしなかったために盛りがついたネコならともかく、家の中で飼っているネコの鳴き声が外に聞こえることはほとんどありません。
いずれ『鳴いても無駄なんだな』と学習するので、それまでほおっておきましょう」
へー、そういうものなのかー。
ということで、あいかわらず杏ちゃんさんはニャーニャーうるさかったのですが、フトンをひっかぶって、ひたすら耐えることにしました。
にゃー、にゃー!
必死で鳴く杏ちゃん!
負けじと布団をかぶって耐え忍ぶオイラ!
けっきょく杏ちゃんは、朝の6時半まで…なんと2時間半も鳴きっぱなしで。
オイラはそれを布団の中でやり過ごして。
もちろん眠れなかったけれど、ネコの鳴き声で目が覚めているのは睡眠が足りている証拠だ、と自己暗示。
アイツは鳴きたいだけ鳴いたし。
オレは寝たいだけ寝てたし(眠ってないけど)。
それでいいじゃないか、ははははは!
そしてエサをあげると杏ちゃんさんは、それまでと全く違う声で
「にゃっふーぃ!(ィヤッホーィ!みたいな感じで)」
と鳴きました。うれしくて喜んでいるのが伝わってくるではありませんか。
なにしろ二時間半も待ちわびてから食べるエサですから、そりゃあもう、美味しいのでありましょう。よかったなぁ。
ふと部屋の一角を見れば、そこには真新しいウンコが。
おそらく杏ちゃんは、エサを2時間半もお預けされたのに腹を立てて犯行に及んだのでしょう。
オイラは朝から泣きたい気持ちになりました。