ーOOO-キャットマスク
会社帰りにコンビニに寄って、アンドーナツを買う。
家に帰ってレジ袋をカサリと置くと、もうその音だけで我が家の子ネコの杏ちゃんが寄ってくる。
はらへったー、みたいな顔をしている。
エサのカリカリを用意して、たっぷりのぬるま湯で少しふやかして、杏ちゃんにはソレを食べてもらう。
チャプチャプとエサを食べはじめたのを見届けて、オイラはアンドーナツを手にとって、バリっとあける。
耳ざとい杏ちゃんは、自分のエサを食べるのをやめ、こちらにスッ飛んできた。
杏ちゃんはネコなんだけど甘党で、アンドーナツに目がない。食べさせてあげると大喜びして、小さい口を大きく開いて、むしゃむしゃとかぶりついたり、あるいはペロペロあんこをなめたり。そりゃもう大はしゃぎなのだ。
オイラがアンドーナツを食べはじめると、もうじっとしていられない。パッとオイラの肩に飛び乗って、手を伸ばしてクレクレと催促する。
だーめ。
意地悪をすると、杏ちゃんは身をよじらせて「くれー、くれー」とはげしく催促する。
で、そーいう姿もかわいいので、あえて意地悪を続ける。
今日はあげません、よ。
ひとりでムシャムシャ食べていると、肩の上に乗った杏ちゃんは必死になってアンドーナツを横取りしようとする。その必死さがまたカワイイのだ。
ひょいひょい攻撃をかわしながらアンドーナツを食べていたら、「いつもは一口食べさせてくれるのに、今日はズルイ!」と思ったのか、バシッと鋭いネコパンチが飛んできた!
うひゃっ!
と思ったときにはもう遅い。
オイラのほっぺたには、ザックリとネコの爪あとが、三本の筋になっていたのでした。
痛いッ!
ケガしたのは自業自得なのだが。
しかしほっぺたにデカい傷は、あまりにもカッコ悪い。
傷がデカすぎて、バンドエイド一枚くらいでは隠すことができない。
あ、そういえば、花粉予防マスクが買い置きしてあったっけ。
マスクをつけて、鏡をのぞく… うん、隠れたみたい。
翌日の朝は恥ずかしがることなく通勤電車に乗ることができたのでした。
電車の中を見渡せば、マスクをつけてる人がちらほら。花粉症のシーズンは始まっているし、インフルエンザも流行っているから、マスクをするのは不自然じゃない。
それからオイラは和菓子屋に勤めているんですけど、職場は衛生が第一ですから、マスクをするのは良いことで。
恥ずかしいネコの引っかき傷のことを、職場の誰にも知られることなく、粛々と仕事をするワタクシ。うん、これなら問題ない。
しかし、職場でお昼を食べるときには、どうしてもマスクを外さざるを得ない。
仕方がないので、度胸を決めてカミングアウト。
みんなに大ウケしました。
それから、パートのおばちゃんが
「あ、でもその傷、マスクの端っこから見えてたよ。だからみんなで『きっとネコに引っかかれちゃったんだねー、かわいそうだから黙っておいてあげようよ』ってウワサしてたんだよー」
ここでまたドッと笑いが。
そ、そうか… 見えてたのか…ッ! (激しい動揺)