ーOOO-「自分は主人公じゃない」ということ … 楽隊のうさぎ
とにかく不思議なくらい「主人公の主人公っぽくなさ」が印象的な作品です。
映画としてはひどくものたりなかったんだけど、自分の心にはドスンと来た一本でした。
中学校に入学した主人公は、彼にしか見えない不思議なウサギの妖精を追いかけて、吹奏楽部に入部することになる。
彼は初心者なりにドラムを一生懸命練習する。打楽器のパートリーダーの上級生の女の子にいろいろ気にかけてもらうんだけど、そこで彼が楽器の天才的な才能を発揮したり、彼がパートリーダーを引き継ぐようなこともない。かといって、彼女と恋が芽生えるかというと、そういうドラマチックなことは起こらない。
廊下で女の子と二人っきりになって、「そこ、話しかける場面じゃないの…?」というところで、モジモジ、モジモジ。けっきょく何も起こらない。学校帰りに何人もの女子たちと一緒に帰るけど、何かが起こったりしない。帰るだけ。
観客から見て「この子がヒロインなのかな?」という女の子は、あっさり吹奏楽部を辞めてしまう。そこで主人公は追いかけたりしない。
この映画は主人公の吹奏楽の上達がテーマなのか? というと、そうでもない。練習する曲が、部として完成しないうちに本番に入り、そして次の課題曲に挑む。また上達しないうちに本番。それが何回か繰り返される。発表され演奏曲は、なんとなく締まりの無い仕上がりが続き、映画の観客のカタルシスは得られない。
季節は巡り、彼は2年生になり、下級生にドラムを指導する立場になったけれど、それは2年生になったから。けして上手になったからとか、周囲からの人望があついからとかじゃない。
結局、吹奏楽部が賞を取ることはない。
上級生が夏休みで部活を卒業して、じゃあ主人公が部長になるのかというと、そんなこともおこらない。
ふっつりと、映画は終わってしまう。
うさぎの妖精は何かするのか? 何もしない。
この映画の主人公は、なんだか流されていく。
自分で何かをつかみ取る、ということはない。
唯一、主人公が自分で選んだことは、映画の冒頭で吹奏楽部に入部を決めたことだけなのだが、これさえもウサギを追いかけているウチに入部したわけだから、自分でつかみ取った運命ではない。
映画の観客からすると何回もフラグが立って、じれったいったらありゃあしないんだけど、何も起こらない。
主人公が何もしないから、映画としてはまるっきり物足りない。
主人公は、およそ主人公らしくない。
主人公としての自覚がない。
しかし。
ワタシは思うのです。
思えば、自分もそんなものではなかったか、と。
友達に誘われるがままに入った柔道部。特に目標も無く。
ふつうにやってたら中程度に強くなって、がんばれば強くなれたはずだけど、頑張るでもなく、サボるでもなく。だらだらと。
クラスでは人気者になるわけでなく、嫌われるでもなく。なんとなく話せる女子が何人かいたけれど、仲良くなるでなく、「そういえばあのとき、なんかフラグ立ってたんじゃないの?」という出来事がいくつかありつつ、それはもう引き返せない、確認できない遠い過去の出来事。
なんとなく3年たったからという理由で、無事に卒業してしまった。
無事というより、何事も無かった。
何も、なかった。
フワフワしていて、自分が自分の人生を動かしていくという自覚を持っていなかった。
今でも持てずにいる。
自分は自分の人生の主人公だ、という意識さえ。
本作品は、映画としては物足りなくて、オススメはしないのだけれど。
だけど、ピーマンみたいに何もつまっていないスカスカした自分の心に、ドスンと重くて暗い穴が空いて。
やたらと、効いた。
なんだかじっとしていられない。
飲まずにいられない気がしたけれど、この気持ちを酒で紛らわしても仕方が無いんじゃないか。
うすっぺらな自分の中を、いま、ひゅうひゅうと冷たい風が吹き抜けています。