ーOOO-バードストライク

 今日も今日とて、お仕事お仕事。
 寒い朝、手袋はめて自転車のハンドルを握り、寝ぼけまなこでユルユルと漕ぎだしていく。
 電柱の上には、早起きなハトやスズメたちが、ピーチクパーチクにぎやかだ。
 と、そのとき。
 …ベトッ!
 髪の毛に、イヤな感触。
 恐る恐る頭のてっぺんに触ると、手袋にビットリと、白いモノが…。
 うぎゃーッ! 鳥のフンだッ!
 あわてて家に引き返す。幸い、まだ家からそんなに離れていない。誰ともすれ違いませんように… と祈りながら、全力ダッシュ
 家に帰ると、あまりにも早い主人の帰宅に子猫の杏ちゃんは大はしゃぎでじゃれつくけれど、かまってらんない。もー、あとであとで!


 んで、問題点が一つ。
 我が家には、洗面台がないのだった。
 いつも顔を洗うときは、ボロいキッチンの流しに洗面器を用意して顔を洗っている私なのだが。しかしこうして「頭を洗おう!」と思ってみると、キッチンは狭すぎる。
 となると風呂場で頭を洗うしかないか。洗面器にお湯を溜めて、あ、そうだ、服を脱がなきゃダメか? そんなことないよなー?
 ちょっと考えて、首回りにバスタオルを巻いて、余計なところに水を飛ばさないように、細心の注意を払いながらシャンプーしてみた。
 しゃわわわわー。
 しゃかしゃかしゃか…。
 うん、問題ない。
 いつもと違い、服を脱がないで風呂場でシャンプーする自分、という不自然さがなんだか面白い。
 考えてみるまでもなく、そういえばこれ、朝シャンじゃんね?
 おお、いまオレは、朝シャンしているのか!
 何かオシャレなことをしている気がする!
 そう思うと、朝っばらから鳥のフンがくっついたというイヤな記憶は上書きされて、さわやかで晴れやかな気分になってきた。


 ちょっとウキウキしながら玄関へ。
 そこには、さっきの鳥のフンがベッタリついた、手袋が脱ぎ捨てられていた。
 うげっ… いっしゅん現実に引き戻される。
 手袋の汚れをさっと水洗いして、洗濯機に投げ込んだ。
 これで全部すんだ。もう問題ない。


 さあさ、気分をリセット、リセット。
 今日をいちからやり直し。


 お目覚め後に朝シャンをして、さわやかな一日のはじまり、はじまり。
 今日も今日とて、お仕事お仕事。
 寒い朝、手袋はめずに自転車のハンドルを握り…、
 と、そのとき。
 …ベトッ!
 てのひらに、イヤな感触。
 うぎゃーッ! 鳥のフンだッ!


 手袋で鳥のフンをぬぐったあと、そのままその手でハンドルを握って帰ってきたことを、忘れていたのだった。