ーOOO-父と子と子と

 親孝行ってヤツで、というか父のリクエストで、父と兄とワタクシとで家族旅行に行ってきたのです。こないだの土日に。
 土曜日は熱海に一泊して、日曜日は箱根へ足を伸ばそうか。そんな程度のざっくりしたスケジュール。


「今度、熱海に行ってくるのですよ」と会社で宣言すると、パートのおばさんが口々に「まあ、いいわねぇ!」
「熱海ってホントいいとこよぉ。あのね、私はナントカってホテルに泊まったんだけど、あのホテルがホントに良くて…」
 いや、あの、宿、もう決めちゃいましたんで…。
 別なおばちゃんも言う。
「あのね、私の泊まったホテルでは、美川憲一のディナーショーがあってね…」
 ですから、宿は決めたので…。


 旅慣れた会社のヒト曰く、
「熱海は伊豆の玄関口なので、そこを拠点に伊豆を回るのが良いのであって、熱海それ自体の魅力は乏しいのだ」
 行ってみるとナルホドという感じ。
 たとえば街中を流れる細い川には、小さな橋が沢山架けてある。が、それらの橋はコンクリート製で、変なデザインがされている。しかもそれぞれの橋が自己主張をしているので、見た目の統一感に欠けるのだ。
 税金を投入して、街並みをダサくしてしまった感じ。そのむなしさ。うーん。
 とはいえ今回の宿は、こじんまりとしていて、お料理もご予算相応に立派で、オーシャンビューで波の音が聞こえ、まあまあ良い夜を過ごしたのでした。
 
 宿をたつときに父は、
「いやしかし今回の宿は、部屋はかび臭かったし、布団はせんべい布団だったし、温泉は狭かったし、ちっとも良い宿じゃなかったな!」
とか急にグチグチ言い出すので、私と兄は閉口したのでした。


 2日目の箱根路。
 この日はワールドカップの日本代表の試合があって、サッカーファンの兄は気が気でない。
 地デジナビの画面で観戦していたのですが、キックオフとほぼ同時に車は一路、箱根路へ。
「さあ、ニッポン大きなチャンスが!」…ザッ
 くねくねとした箱根の登り坂は、カーブを曲がるたびに電波状況がめまぐるしく変わる。
「おおおっと、これは!」…ザッ
 なかなか試合が見れずにイライラする兄。
 ニッポンが得点したシーンが見れたのは、不幸中の幸いでありました。
 


 芦ノ湖に着いたあたりで前半戦終了。
 このへんで兄がブチ切れて、
「オレは腰が痛いし、仕事で疲れてるし、こんなところに来たくなかった! 早く家に帰りたいんだよ!」
とか言い出すので、芦ノ湖観光は省略して、車はそのまま東名御殿場インター方面へ、そしてそのまま帰路へ。
 芦ノ湖から御殿場方面の山道のほうが地デジの電波状況は悪く、気が付けばサッカーは同点で、と言うか逆転されていて、っていうかニッポンは初戦を落としてしまい。兄はブンむくれ、父も観光出来ずにブンむくれ、そんな父の日だったのでした。


 旅行を通して、家族の絆が強くなったような気もしたのですが。
 しかし逆に、
「アニキってああいうところあるよね…」「お父さんも、ああいう部分あるよね…」
 というような、家族のあいだの埋められない溝のようなモノが、さらに深くなってしまった気もするワタクシなのでした。
 家族旅行って、一体何なんでしょうね…。