日曜大工で地下室を ─◯◯◯-

友人の実家は雑貨屋的なこぢんまりとした酒屋なのだが、
だいぶ早くに友人は酒屋を継がないと宣言していた。
スーパーの進出が相次ぎ
周囲の商店街もだんだん寂れてきていたこともあってか、
友人のお父さんは店を小さくすることを決意したようで、
倉庫の中の在庫や荷物を整理していた。
それが十年以上前の話。

あるとき、その友人の実家の酒屋へ顔を出したら、
お父さんは倉庫のシャッターの中を見せてくれた。
驚いたことにお父さんは
ガランとした倉庫の床をぶち抜いて、
下方向へ掘り進んでいた。

掘る面積の広さがただごとではなくて、
学校の40人教室よりちょっと狭い程度、という印象。
私は正確に計ったわけではないし
何と説明していいのかよくわからないのだが
少なくとも30畳以上はあった。
それを真下に3メートルほど掘っていた。

「掘ったドロはどうしたんですか?」

「うん、近所の○○さんの斜面に捨てさせてもらった。
 あそこ、ガケだったけど、
 掘った土をネコ車に乗せて捨てに行ってるうちに
 ガケが平らになっちゃって
 三台分の駐車スペースが出来た、って感謝されたよ」

掘り進む作業は本業の合間を縫って
二年にわたって行われた。

それから一年後に様子を見に行ったら
お父さんは回りに鉄筋を組んでいた。

その一年後は、コンクリートで周囲に壁ができあがっていて、
その一年後は地下室の天井部分件、倉庫の床部分を組んでいた。

「ビールメーカーの営業さんが
  『おたくに行ったハズのビールケースが帰ってこないんだけど
   どうなってるんですか?』
 って、ウチに聞きに来たんだけど、
 地下室の天井を組むために
 ビールケースを地下室の床から天井の高さまで
 ぎっしり積み上げてあったから
 ソレを見せて
  『すいません、もうちょっとの間、お借りしていいですか?
   終わったらお返ししますんで…』
 って言ったら、帰っていったよ。」

とにかく見るたびに部屋の様子が変わっているので
私は一年にいっぺんぐらいずつ様子を覗きに行くのが楽しくなった。

友人のお父さんは本業の酒屋さんを奥さんに任せて
時々建設現場で内装のクロス張りを手伝っているという話だったが
基本的にはこの地下室制作は日曜大工の延長だ。

私の友人の大工さんは
「大工だったら、自分の家の改築とかなんて、
 金にならない残業みたいなもんだし、
 フツーはやらないよ。
 ソレがわかってるだけに、
 良く日曜大工でココまでやるよなあ、と感心するよ。」
と言っていた。

先日様子を見に行ったときは
とうとう地下室は完成状態になっていた。
広々とした地下室には
トイレや厨房も完備され、
飲み屋で知り合ったカラオケ屋の営業マンに頼んで
地下室に個人で通信カラオケを導入していた。

町内会の集まりがあると、
二次会はそこで行われるのが常で、
商店街のみんながめいめいに持ち寄ったモノをつまみに
朝まで飲み明かすのだそうな。


もうとにかくすごくて、
あそこから帰ってくると
「ようし、オレも頑張らなくっちゃな!」
と言う気持ちにさせられるのだが、
「アレくらい頑張る」、っつーと
はたしていったいナニをすればよいのか
私はちょっと途方に暮れてしまうのだった。