ツバメと巣 ─◯◯◯-

先週の風の強い日に、
親戚のお見舞いで仙台に行った。

私はお盆に帰省することが多いので
夏の濃い緑の東北道が馴染み深い。
一面塗りつぶしたような濃い緑と
強い日差しに作り出された日陰の黒い緑。

しかし6月初頭の東北道を一路北上すると
山の緑はだんだんとやわらいだ緑へと変わって行く。
木々の一本一本の緑の濃さが全く異なり、
山にはいろいろな木が育っているのだなぁ、と
いまさら当たり前のことに気が付く。

黒々とした緑。
光に透けているようなやわらかな黄緑。
遠くから見る竹林は
縦に真っすぐな緑に、黄緑が振りかけてある。
強い風に私の車の進路は揺れ、
山の緑も揺れる。
終わりかけの新緑を目で楽しんでいるうちに
思っていたよりも早く車は仙台へと着く。

面会時間には早いので
病院前のファミレスへ車をとめ、昼食にした。
注文を待ちながら何げなく窓の外を眺めると、
ツバメが飛んでいた。
駐車場から二段ほど高いところに建ててある
ファミレスの窓から見ると
私の目の高さをツバメは飛んでいた。
時にツーッと、
時にパタパタと。
なにしろ風が強いので、
風向きによってツバメのスピードが変わる。

食事を終えて駐車場に戻る時、
私の目の前をツバメが横切り、ファミレスの陰へ消えた。
見れば、建物のひさしの下にツバメの巣があった。
そっと近づくと、
ツバメは巣の中で大きく口を開けたヒナにエサをあげ、
またサッと飛び立って行った。

さっき私が何度も見ていたツバメは
ツバメがいっぱいいた訳ではなくて、
あの親ツバメが何度も何度もエサを運んでいたのだな、と
ニブい私はいまさら気が付く。

と、またツバメが戻って来た。
ふと思いついて、
ケータイのカメラで写真を撮ろうかな、と思った。
遠くから最大ズームで狙う。
「カシャッ」
思ったよりも大きなシャッター音。
その瞬間、ツバメは飛んで行った。

エサをあげている瞬間は撮れただろうか?
ちょっと遠すぎてうまく写らなかったかも?
そんなことを思いながら、
巣にぐっと近づく。
あらかじめピントを合わせる。
さあ、こい。

だが、
待てども待てどもツバメがこない。
さっきはサッと飛んで来たのに。

ニブいニブい私はようやく気が付く。
親ツバメが私を警戒して巣に近づかないのだ、と。
さっきの位置まで戻って振り返ると、
親ツバメはツーッと巣に来て
ヒナにエサをあげ始めた。

すまんすまん。
心の中で親ツバメにわび、
私はその場を後にした。