プロ失格 ─◯◯◯-

弊社の新人君は
プロボクサーをめざすという野望を胸に秘めている。
先日はじめてプロテストを受けたのだが、
残念ながら落ちてしまったということだ。
会社で昼飯を食べながら、
見知らぬボクシング界の模様について
我々は根掘り葉掘り彼に聞く。

「プロテストってどんなことすんの?」

「あー、実技って言うかスパーリングと、あと筆記試験でー」

「筆記試験?何やんのさ?」

「あー、ルールとかー」

「筆記で落ちたんじゃねぇの?」

「いやー、それはないハズなんすよ。
 筆記でだめだと、会場で呼ばれて、
  『ココ間違ってる』
 って言われて終わりなんですよー」

「んじゃースパーリングで落ちたんだ?」

「そーっスねー」

「スパーリングって事は相手を倒す訳じゃないんだ?」

「そーっスねー。
 ダウンしても、内容が良ければ受かるらしいんで」

「っつーと、採点基準は?」

「あー、どうなんすかねー、フォームとか見て
  『積極的に手を出してるかどうか』
 とか
  『コイツはプロでやっていけるかどうか』
 とかを見てる、とかなんとか」

「ってーコトは、お前は
  『コイツはプロでやっていけない』
 って思われたって事じゃん?」

「ぐさっ」

「落ちたのはお前一人なんじゃないの?」

「いや、でも、
 会場で他の受験生の様子を見てたんですけど、
  『あー、こいつ見るからにダメだなー』
 って奴とかいましたよ」

「いや、そいつは受かってるかもしんないじゃん?
  『落ちたお前に言われたくないよ』
 って思ってるかもしんないじゃん?」

「ぐさっ。うー、それは有るかも…
 あー、逆に
  『こいつは受かりそうだな』
 ってーのもいっぱいいましたよ。
 すげえパンチの奴とか」

「そこに感心すんなってば」

「いやー、でも別に試合じゃ無くて
 テストだからと思って、
 ちょっとナメてたとこあったかも。
 あと、見るからに鍛えてますって感じの
 腹の筋肉が六つに割れてるヤツとかいて、
 オレはなんかトランクスの上に
 腹の肉がぽてっと乗っかってるんですよ」

「全然ダメダメじゃん」

「やー、会社の昼飯がおいしくって。
 あと、みんなオカズをおれに分けてくれるじゃないですかー?」

「俺達のせいなのかよ!」

「なんか一人暮らししてるから
 食費が浮くと助かるんで
  『ここで食べとかなきゃなー』
 って気がするんですよ」

「こらえろよ!」
全員で総ツッコミ。