友人vs廃品回収車 ─◯◯◯-

私は先日、引っ越しを手伝って来た訳だが
その時友人は
使えないクーラーとか映らなくなったテレビといったような
古い電化製品を持って引っ越しした。
おかげで邪魔っけなものが多くて
クソかったるいったらありゃあしなかった。

電化製品を電気屋やゴミ処理場に引き取ってもらうと
家電リサイクル法によってお金を取られる。
だから、そうじゃなくて
古い電化製品を引き取る廃品回収業者がやってきたら
持っていってもらおう、というのが友人の考えだったらしい。
だが、
年末は一日に何台もやって来た業者が
一月から二月の間は何故だかぴたりとやってこなくて
それでやむなく
ゴミごと引っ越すハメになってしまった。

新居は以前よりビミョーに狭いので、
それらの資源ゴミは庭先にほうってある。
引っ越しして新生活のためのあれこれをしているうちに
なんだか捨てたくなったボロいオーブントースター、などなど
ゴミではなかったはずなのにゴミっぽく見えて来た物を
友人は思い切って処分することにした。
それらのブツはやはり庭先に放置された。

「ご近所の人達の目線が冷たいのだよ…」
と友人は言う。
そりゃそうだ。
なにしろ引っ越して来たばかりなのに、
いきなり友人の家はゴミ屋敷と化しているのだ。

けれど友人は仕事で家を空けることが多く、
なかなか廃品回収業者に会うことが出来なかった。

しかし、先日とうとう、
待ちに待った廃品回収がやって来た。
「ご家庭で、ご不要となりました…」
という声が近づいてくると、
いつもは「うるせーなぁ」と感じていたはずなのに
その時に限ってはいつもと違った興奮が高まる。
近づいたり遠ざかったりしながら、
だんだんと大きくなるテープの呼び声。

廃品回収車が角を曲がって、ついにこちらに向かってくる。
友人はガラッと窓を開け、
「すいませーん」
と呼び止めるべく、手を上げようとしたその瞬間、
「ん?」
現れたのはちっぽけな軽トラック。
荷台には何も積んでいない。
うさんくさい。
なんだかテープの声もひどく素人臭いしゃべり方に感じられる。
そしてよくよく注意して聞くと、
テープの声は
「『無料で』回収します」
とは言ってない。

考え過ぎかもしれない。
でも、ここでそいつを呼び止めて、
家電回収料金かなんかをふんだくられると頭に来るので
スルーすることに友人は決めた。

でも友人はいま窓を開けた瞬間に
回収車を今にも呼び止めようと手をあげかけたポーズなので
いかにも不自然。
そこから強引に
「あー、いい天気だから窓を開けて背伸びしたくなっちゃったー
 空は晴れていて、ホントいいお天気だねー」
みたいなことをやっているフリをしたらしい。

敵もその不自然さに
「ホントはあんた、廃品回収して欲しいんじゃないの?
 だってアンタの庭先、ゴミだらけじゃん?」
と思ったかどうかは知らないが
廃品回収車の速度をさらにいちだんと下げ、
じわりじわりと友人の家の前に差しかかる。
息詰まる男と男の攻防。
業者と目線を会わせないように
不自然な背伸びやあくびを連発する友人。

廃品回収車は去っていった。
とうとう彼は勝った。
勝ったのだ。

しかしおかげで
彼の家は今もまだ
ゴミ屋敷のままなのだが。