ーOOO-遙かなる富士山頂 … 富士山に登ったら何キロやせる?(3)

 ということで「富士山に登ったら何キロやせる?」「いきなり下るぞ富士登山」の続きなのであります。
 そして山開き当日の朝。
 日の出は4時20分のはずでしたが、2時を過ぎると地平線がぼんやりとうっすらと明るく見えてきました。それを見ながら、ワタシはうつらうつら。緊張のあまり、寝てるような寝てないような。
 4時を過ぎたところで、乗り遅れさんが「寒い寒い」と目を覚ましました。
 何かの弾みに簡易寝袋が破れてしまったようで、ずいぶん寒い思いをしたようです。
 装備を整理しながら、ダラダラと起床。

 夜明け前のもっとも冷え込む時間。ご来光を待ちながらワタシはデジカメのシャッターを切り、乗り遅れさんはお雑煮作りに励んでいました。

 乗り遅れさんはこのお雑煮のために、クソ重い水の入ったペットボトルを担いできたのです。
 具にはモチと生野菜、カマボコ、そして鶏肉です。鶏肉は傷まないように、氷の入った袋を持ってきていました。
 これでは荷物が重いハズですな。

 モチと鶏肉のたっぷり入ったお雑煮を食べて、ずいぶん元気になりました。

 水も鶏肉も消費したので、荷物は軽くなりました。
 しかし、簡易寝袋を畳むのは難しく、ぐちゃぐちゃっと丸めたので、かさばるゴミと化しました。
 もちろん富士山にはゴミ箱なんかありませんし、ポイ捨て禁止です。
 けっきょく、ゴミはレジ袋に入れて、リュックにぶら下げるハメになりました。背負う荷物の重量は減ったのですが、荷物のカサはむしろ増えるばかりです。
 遠くの方で…おそらく富士山の五合目で、山開きを祝う花火が打ち上げられました。
 打ち上げ花火を見下ろすのは、すこし不思議な気持ちです。
 ずいぶんゆっくり休んだ私たちですが、山頂を目指し、6時20分ごろ、ふたたび登り始めました。


 ところでワタシは本格的な登山は初めてです。
 明るくなってからあらためて登山道を見上げると、延々と岩肌が続いています。
 あれっ、昨日の夜は、こんな道を登ってたんだっけ?と、驚いてしましました。
 
 とにかく岩に張りついて、上を目指します。
 しかし、両手両足で岩につかまると、どうしていいのかよくわからなくなります。とにかくどれか手か足を離して、次の岩場に手がかりをつけなければなりません。 45度くらいの斜度の坂が続くのですが、なんだか垂直な壁に思えて仕方がありません。
 重い荷物を背負っているから、身体を起こすと後ろに落っこちそうで、怖い。
 岩に張りついたまま下を向くと、ゾッとするほど高い場所に立っている。落ちたらヤバい。あれ、オレって、高所恐怖症だったっけ…?
 どこかに立ち止まって休もう…と思っても、立ち止まれる安心な場所がなかなか見当たらない。見渡す限りの坂、岩、坂、岩。平らな場所がない。


 夜の闇の中では、とにかく無我夢中で前だけ見て進んでいました。明るくなればもっと楽に上れるのかと思っていましたが。
 いざ明るくなってみると、見えすぎて怖い。


 通りすがりの人たちに声をかけたり、かけられたり。
「こんにちは!」
「こんにちは!」
「いやー、富士山、ヤバいっすね!大変ッすね!」
「そうですよ! 日本一の山なんだから、ナメちゃぁダメですよッ!」
 そんなことをいいながら、山ガールたちはさくさく登っていきました。
 オレは岩にへばりついたまま動けないでいたというのに、あのヒトたちは杖さえ使わずに、2本の足でスタスタさくさく登っていく…!
 ゆるふわなイメージとはうらはらに、きゃしゃなカラダでたくましすぎる…。
 すげえぜ、山ガール!
 そしてワタシたちは何度も立ち止まって、休憩しました。
 携行食として、乗り遅れさんが持ってきたところてんを食べました。
 景色がよくて空気がうまいので、こういうところで食べるところてんは格別です!

 携行食としてはカロリーゼロなので全く意味がないのですが、そーいうネタに命をかける乗り遅れさんなのでありました。
「いやいや、ぼかーねぇ、ホントはキュウリを持ってきて、もろきゅうとかを食べたかったんですよぉ!」
 キュウリって…、それもカロリーゼロですぜ…。


 いつまでも立ちどまっていても仕方がないので、登山を再開。
 目の前に立ちはだかる岩の前で、ルートが思い浮かばず、立ち尽くすワタシ。
 どうしよう? 突き進むか? 迂回するか? 迂回するなら右か左か?
 困ってオロオロしていると、他の人たちがいろいろな方法で通り抜けていきます。その様子を見ていたら「あ。このルートなら自分でも乗り越えられるかもしれないな…」というのがわかってきました。

 マラソン大会の時もそうなんだけど、たくさんの人たちと走っているとその中には自分と似たペースで走っている人がいて、その人に引っ張ってもらうようについて行くと楽なんですよね。
 登山も似たトコがあって、自分一人ではどう登ればいいかわからないけれど、他の人を見ているウチに通り抜け方がわかって、スッといけるようになるみたいでした。


 日が差してきて、もはや暑い。木かげはおろか、岩かげさえもない。
 全身運動だから、どんどん汗をかく。暑い。シャツを脱ぐワタシ。
 ここへ来て、防寒対策の装備を持って来すぎたことが、まったく裏目だったと気がつきます。

 リュックの中は防寒グッズの洋服でパンパンになっていて、今自分が脱いだシャツをしまうスペースさえありません。
 仕方なしに、脱いだ服をリュックに縛り付けたり腰に巻いたりして登山を続けましたが、とにかく装備がいつまでもうっとおしかったです。


 今回のワタシたちは寒さに備えすぎで、荷物が重かったです。
 でも「寒さに備えすぎた! 荷物が重かった!」ってーのは、笑い話程度ですみますが。
 もしも「寒さに備えてなかった! 着る服がない!」となれば、これは一大事です。命に関わります。
 山の天気は変わりやすく、急に雨が降ったり雪が降ったり、強風にあおられたりします。そういうときのために確かな装備はやはり必要です。
 逆に、昼間になると意外なくらい暑いです。なんといっても日陰がありませんし、動いているから全身から汗が噴き出します。
 暑さに備えて極端な薄着を準備しつつ、突然の雨や雪に備えるような装備。だから、軽くて暖かくてコンパクトになる防寒着と雨具が必要になりそうです。


 このあたりまでくると山小屋がポツポツと立っていて、「とりあえずあそこまで登ろう」という目標が立てやすかったです。
 急斜面に立つ山小屋はどこも、投入堂みたいなかんじ。山肌にむりやりへばりつくように建っている。見た目、不安定きわまりない。

 山小屋に着いたら一休み…と思うんだけど、ワタシは高所恐怖症の気が出てきたから、手すりにつかまることができない。ベンチに座ることができない。なぜって、ベンチの背もたれの向こうは崖下だから。
 ワタシはもう、気持ちが落ち着く場所がぜんぜんありませんでした。


 登山道を歩いていると、登山道を降りてくる人とすれ違うことがあります。途中で登れなくなって下山を決断したのか、なんなのか。登山道の岩場は急斜面で、登るのに四苦八苦しているワタシとしては、「この道をよく降りる気になるなー」という印象。
 しかし、ひょっとしたら自分もこの先「登るのは無理だ!」と思う瞬間が来るかもしれない。急斜面の途中で下山を決断すると、むしろ危なっかしい。登る体力が尽きたところで、「じゃあ降りよう」という体力が残っているかどうか? 降りれる体力が残っているウチに下山を決断しないと大変なことになるな…。そんなことをチラリと考えはじめました。


 
 
 8合目に到着したのは午前8時頃のことでした。
 通常7合目から8合目までは80分くらいらしいのですが、私たちはその倍の時間をかけて登った計算になります。恐るべきスローペース。
 8合目はキリに包まれていて…というか、ここはもう雲の中でした。
 ここの高度は3100メートル。高度的には頂上まであと700メートル足らずなのですが、八合目を抜けると本八合目があって、8.5合目があって、9合目が来ます。頂上までの道のりはまだまだ長いようです。

 この先のルートを見上げれば、まだまだ岩場が続くようでした。
「もっとこの上に進めば、また砂地が戻ってきて、楽な斜面になって登りやすい部分が続くんですよ」
と乗り遅れさんに言われたんですが、とにかく目の前は岩場だし、山頂方面は濃い霧に覆われているし、どうもそうとは思えませんでした。
 


 ところでこの日は山開きの日だったので、山梨日日新聞の記者の方に取材されたのですよっ。
 厳密には取材ではなくて、富士山から東日本大震災の被災地の方々へメッセージカードを送ろう、というものでした。

 こうして山小屋の方に託したメッセージは、富士山頂の郵便局から被災地の方に送られると言うことでした。


ー 続く ー

富士山に登ったら何キロやせる?

  1. エクストリーム体重測定
  2. いきなり下るぞ富士登山
  3. →遙かなる富士山頂
  4. で、結局何キロやせたのよ?