ーOOO-いきなり下るぞ富士登山 … 富士山に登ったら何キロやせる?(2)

 ということで「富士山に登ったら何キロやせる?…エクストリーム体重測定」の続きなのであります。
 
 登山の装備を調えた友達の乗り遅れさんとともに、あらためて富士スバルライン5合目の駐車場に車を停めて、いよいよワレワレの富士登山がスタートなのです。
 現在の時刻は夜の9時まえ。そして日の出は朝4時20分頃。この時間から出発すれば、スケジュール的にはタイトですが、途中で軽く休憩を入れながら登山して、富士山頂でご来光を見ることが可能です。
 さぁ、富士登山の華麗なる第一歩のスタート、であります!
 頂上を目ざし、ワレワレは一歩、また一歩とけわしい坂を登り…
 …と思っていたら、いきなり延々と下り坂をおりるハメになりました。ちょっと拍子抜けです。
 ワタシたちは富士スバルライン五合目駐車場から吉田ルートを通って頂上を目指します。
 で、このルートの場合、五合目駐車場の標高が2305m、六合目の標高が2390m。ということで、五合目と六合目の高度差はあまり無いのでした。
 
 ちなみに、富士山の五合目とか六合目とかは厳密な高度や距離で決められているものではなくて、あくまでも感覚で決められてるっぽいです。
 登山口が違えば、同じ五合目でも高度が違います。
 また、五合目→六合目→七合目→八合目と来たら、次は本八合目があって、8.5合目があって、九合目→9.5合目→山頂、となるのです。んー、わかりずらい!


 ざくざくと木々の根や岩を踏みしめ、足取りも軽やかに進んでいきます。
 んで、真っ暗すぎてフラッシュを焚いても周囲の景色がうつらなかったので、ちょっと昼間に撮った写真を貼りますね。
 富士山は周囲に山のない単独峰で、ひとたび風が吹けば隠れる場所がありません。
 このあたりの木々は岩を突き破るように生え、吹き下ろす強風に曲げられて傾きながら成長しています。なだらかで美しい富士山ですが、そこには厳しい自然が広がっていました。
 
 ユルくてダラダラした下り坂に油断して、木の根に足を取られて転びそうになったワタシ。オットット…と弾みがつくと、そのまま加速がついて止まれません。ダラダラと長い坂道には踊り場があるわけでもなく、立ち止まるのに一苦労です。
 始まったばかりのなんでもない場所から、ワタシは山道の厳しさを感じつつありました。


 歩いていると、上の方に明るい建物が転々としています。それは山小屋です。登山中はとにかくその明るい建物を目指して歩き、そこにたどりつくまでが一つの小さな目標になります。
「あーいう小さな目標にむかって歩いてって、それを繰り返していくうちに、いつのまにか頂上にたどり着いているモンなんですよぉ」と、乗り遅れさん。
 んで、とにかく明るい建物を目指して歩いていたら、そこが富士山の6合目でした。
 ここは富士山の安全を守る安全指導センターなんだそうです。
 山開きを翌日に控え、開設準備をしていたようでした。

 ここまでは40分ほどで到着です。標準ペースなら1時間程度と言うことですから、なかなか快調です。
 ワタシたちは軽やかに7合目に向けて歩き始めました。


 6合目を超えると景色も地面も変わってきます。
 ざくざくと粒のあらい砂地が続き、急に斜面がキツくなって、いよいよ山登りという感じになってきます。
 路面は階段状に見えますが、これは階段ではなくて土止めだから一段一段が大きくて、乗り越えるのに一苦労です。


 写真に丸い光の玉が写ってますが、これは小雨が降ってきたからです。
 このへんで、乗り遅れさんの足取りが重くなってきました。あまりにも急ピッチで登ったからでしょうか? どうも調子が悪そうです。ときどき立ち止まって、休憩しました。
 立ち止まって休んでいると、遠くの方から他の登山者のランプが近づいてきます。真っ暗で薄ら寒い山道だけど、ここを歩いているのは自分だけじゃないんです。
 山道ですれ違うときは、おたがい自然とあいさつしちゃうものなのです。
「こんばんは」
「こんばんは」
 ちょっとしたあいさつなんですが、こういうのが「ああ、山に来たんだなー」と実感する一瞬だったですねー。
 歩いては休み、休んでは歩き。
 乗り遅れさんは、どうやら背負っている荷物が重すぎてへばっているようでした。また、履いていたジーンズが汗を吸って冷たくなり、体温を奪っているようでした。

 寒くなってきたので、ジーンズの上からレインジャケットを重ねましたが、これがさらに汗を呼び、ジーンスは重くなって張りつき、足の動きを妨げているようでもありました。
 山登りにはジーンスは不向きなようです。
 とにかく何度も立ち止まりながら、砂でできた坂道をジグザグと前に進んでいきました。


 と、山道の途中でビールのにおいがしてきました。
 ハッと気がついた乗り遅れさんがリュックを開けてみれば、中に入っていたビールが一缶、爆発していました。
(→これはビールの缶をふみつぶした後の状態で、実際には缶は変形していなかったです)

 気圧が低いので、ご覧のようにコパンもパンパンで爆発寸前です。
 とはいえ普通ならば、山頂に缶ビールを持って行っても爆発するはずありません。この場合はリュックの中で他の荷物に押しつぶされた缶ビールに、変な形に傷が付き、爆発したようでした。
 
 リュックの中身はビールまみれ。乗り遅れさんの装備は半分やられてしまいました。登山の気力が失せそうになりますが、ここでへこたれるワケにはいきません。
 すぐ目の前に見える山小屋の明かりは遙かに遠く、私たちは休み休み、ジグザグ坂を前に進んでいきました。


 わたしたちがようやく7合目にたどり着いたのは、深夜0時過ぎのことでした。所要時間は約2時間20分。
 通常ならば6合目から7合目までは所要時間1時間ほどだそうですから、2倍以上の時間がかかったことになります。

 
 ここで短く休憩を取った私たちは、さらに上を目指しました。


 このへんから景色が変わってきて、それまでの「砂の坂道」とは異なり、「急斜面の岩場」が続くようになります。
 どうやら元気を取り戻した乗り遅れさんは調子がつかめてきたようで、さくさくと前に進んでいきます。
 逆に、砂地はさくさく歩いていたはずのワタシですが、急斜面の岩場には手こずってしまいました。
 
 なにしろ深夜。暗すぎる。
 危険な岩場に張りつくときには、手元を確認したいもの。
 ヘッドランプを装備していたのですが、これはアタマの向いた方向しか照らしません。自分の手元を見るためには、目を動かすのでなく、いちいちアタマを振って動かさなくてはなりません。これはけっこうめんどうです。
 それから手にLEDライトを持っていたのですが、コレはストラップがついてなかったので持ったまま手離すことができず、両手を使って岩に掴まりたいときには邪魔でした。
 夜中だから、周囲が真っ暗で何も見えないから、岩場を登りにくいんじゃないだろうか? 昼間ならもうちょっと違うのでは? ワタシはそんなことを考えてました。


 深夜1時頃。
 どうにもこうにも疲れてきたところで、登山道のわきにちょっと平らでひらけた場所を見つけたワタシたちは、そこで休むことにしました。
 乗り遅れさんが持参したバーナーを使って、ちょっとお湯を沸かして、カップスープを飲みました。
 寒さになれて、もう「寒い」とか感じなくなっていたけれど、トロッとした暖かいスープを飲むと腹の中からあたたまって、気持ちが落ち着きます。
 見下ろせば、目線より低いところにキラキラした街並みが広がります。ワタシは飛行機に乗ったことがないので、人生でもっとも高いところから街並みを眺めたことになります。目の前には山中湖が。遠く静岡や、東京の光がこちらを照らします。
「うん、キレイだけど、ちょーっと暗いかもね。今年はホラ、節電ムードだから」
 遠くの街なみは輝いているのに、青木ヶ原の樹海に囲まれた富士山の周囲は真っ暗です。
 しかし山肌にはホタルよりもちいさな光がきらめき、右に左にゆらゆら揺れながら、近づいてきます。こんな時間でも、富士山頂を目指す人たちがいるんですね。


 それから簡易寝袋にくるまって寝ました。簡易寝袋というのは銀色のビニールで、クッション性は皆無。風を妨げて熱を逃がさないので、そこそこ暖かかったけれど、ビニールだから風にあおられてバリバリうるさかったです。
 富士山を登るまえには「ご来光を山頂で見て、取材に来たテレビにインタビューされたら面白いよね…」などといっていたワタシたちでしたが、実際にはこうして7合目の中腹あたりで夜を明かすハメに。富士山頂は遠く、現実はなかなか厳しいものでした。
 冷たい空気の中、寝袋にくるまって空を見上げると、満天の星空。
 プラネタリウムを超えた、本当の満天の星空。
 あんなにはっきり天の川を見たのは、生まれてはじめてでした。


ー 続く ー

富士山に登ったら何キロやせる?

  1. エクストリーム体重測定
  2. →いきなり下るぞ富士登山
  3. 遙かなる富士山頂
  4. で、結局何キロやせたのよ?