ーOOO-で、結局何キロやせたのよ? … 富士山に登ったら何キロやせる?(4)

 ということで「富士山に登ったら何キロやせる?」「いきなり下るぞ富士登山」「遙かなる富士山頂」の続きなのであります。


 七月一日の山開きにあわせ、富士山頂を目指す乗り遅れさんとワタクシ。
 意気揚々と前夜から登り始めてみたものの、途中からは大幅なペースダウン。八合目の山小屋で手紙を書いたりして、1時間ほど休憩をとったところです。
 
 と、そのとき、小雪がちらついてきて、山の下から吹き上げてきました。
 山頂ははるか先、霧の中です。
 この先の天気が不安になってきました。


 七合目から八合目までは、通常の倍以上の時間がかかりました。
 八合目から頂上までは、通常ならば約3時間だそうです。今のワタシならば、通常の倍…いや、それ以上の時間がかかるでしょう。
 というか疲れ切っていたワタシには、頂上に登るどころか、はたして下山する体力が残っているのかさえ自信がありません。


 このへんが、限界か。


 ということで、すごくみっともないんだけど、ここで下山を決断しました。
 小雪が舞った程度でビビって、しっぽを巻いて逃げたのです。
 乗り遅れさんは「いいよ、いいよ」と言ってくれたけど、きっと頂上まで行きたかったろうにな…と、申し訳なさでいっぱいでした。


 ところで、この企画はエクストリーム体重測定なのです。
 エクストリームとは、「極限」「極度」「過激」などといった意味をもつ英語です。そしてエクストリーム体重測定とは、
「極限状態の場所で平然と体重計を出し、涼しい顔で体重を計る」
 コレが基本原則なのだっ!
 
 ということで、ここまで担いできた体重計を使って、体重を計ってみましょう。
 いやーもう体重計、ほんとに重くて邪魔だった…。コレがなければもうちょっと楽に登れたんじゃないかな…とも思ったり。
 全装備を背負った状態の体重は、登山直前では103.6キロ。
 そして富士山八合目では。驚きの101.4キロ!
 全装備の重量と言うことで注意したいのは、携行した水を300mlほど飲んだ分があるのですが、それを加味しても1.9キロ痩せています。


 しかし痩せたヨロコビなんかよりも、
「頂上で計りたかったな…っていうか、頂上に行きたかったな…」とか、
「無事に下山できるのかな…」とか、そういうことで頭がいっぱいでした。


 そして私たちは9時に下山を開始しました。
 ワタシたちがいる吉田ルートでは、登山道と下山道が別になっています。そこでまずは山小屋からショートカットして、下山道に直行するルートを進みました。このルートはブルドーザーで山小屋に物資を搬入するためのルートのようでした。
 
 みんな8合目から頂上を目指す人ばかりで、私たちのように下山を選ぶ人はいませんでした。
 前にも後ろにも誰もいない。
 砂の道を、トボトボと行く。
 濃い霧に包まれて小雪の舞う砂利道に、ザクザクと自分たちの足音だけが響きます。
 


 右足と左足を順に出せば、どんなに苦しい山道でも、いつかは頂上にたどり着く。
 しかし、それを選ばなかった。
 自分が下山を言い出したとはいえ、やはりどうしようもなく情けない気持ちです。
 二人は無言で下山しました。


 やがて、本来の下山道と合流しました。

 頂上から降りてきた人と、途中で下山する自分たちが合流するのはカッコ悪いな…と思ったけれど、もちろんだれも後ろ指なんか指しません。
 むしろ、他にだれもいない道から人の気配のする下山道に合流したことに、ホッとしました。

 基本的に景色に変化のない道を、ざくざくと足音を立てて行きます。
 下り坂とはいえ斜面はけっこう急で、つづら折れが続きました。

 元気がある人はザッカザッカと走り降りていきます。
 しかし自分たちは元気がなかったので、転ばないように歩くのが精いっぱい。
 ときおり立ち止まって、水を飲んだり。

「落石注意!」
ということで、下山道には落石除けが設置してありました。
 左の屋根有り落石除けゾーンと右の屋根なし下山道では、風雨にさらされているぶんだけ右の方が低くえぐれていました。

 砂地のつづら折れゾーンが終わりつつあります。
 このへんになると左右に木々の緑が見えるようになってきます。
 急速に高度を下げたので、このへんは蒸し暑くて不愉快な気分だったりします。

 とそのとき、突然の豪雨。
 あわてて山小屋まで走ったら、そこは6合目の安全指導センターでした。
 このときは富士山の安全を祈る儀式の最中でした。
 
 突然のどしゃ降りの雨の中、山岳救助隊の方々や神主さんは傘もささずにずぶぬれになりながら、おごそかな儀式は続いていました。
 こういう人たちに富士山の安全は守られているんだなーと思うと、やっぱりなんだかグッと来てしまいます。


 六合目を過ぎ五合目に向かうと、登山道と下山道は一つの道になって、これから山を目指す人と下山する人がすれ違うようになります。
 行きに5合目から6合目を目指すときには、長い長い下り坂から始まったわけですが、下山するときは逆に長い長い上り坂が待ち受けていることになります。
 疲労困憊しているワタシたち。
 さっきのどしゃ降りのために、ワタシたちは上下レインスーツ姿。
 疲れのあまり肩で息をしながら、ハアハアと山を降りていると、これから山を登ろうとする人たちが、すれ違いざまに次々に「こんにちは」「こんにちは」とあいさつをしてくれます。


 ある女性の方は目をキラキラさせて、ワタシたちにこう尋ねました。
「登ったんですか?」って。
「ええ、まあ」と、乗り遅れさん。
 ウソはついてない。
 頂上までは行かなかったけど、確かにワタシたちは富士山に登ったのだから。
「何時頃から登ったんですか?」
「いや、昨日の9時頃から…」
「ウワーッ、すごい!」
「じゃあ、みなさんもがんばって」
「ありがとうございまーす!」


 そう、いまワタシたちは、装備も衣装もバッチリの、いかにも山登りに慣れたクロウト風に見えているらしかったのでした。
 そして疲れてヨレヨレの様子が、まさに富士山頂からおりてきたばかりのように見えるらしかったのです。
 
 これから山を登ろうとする人たちが、「こんにちは」「こんにちは」といいながら笑顔を、そして尊敬の熱いまなざしを送ってきます。
 なんだかこちらもだんだん元気になってきます。
 そうだ、頂上までは行けなかったけれど、オレたちは今の自分の限界に挑んだんじゃないか。もっと胸を張ろう。
 これから山を登ろうとする人たちに、むしろ元気よくこっちから「がんばってー!」と挨拶していました。
 いつかまたこの山に帰ってこよう、今度来るときはキチンと頂上に登って、胸をはってみんなに「がんばってー!」って言おう、そんなことを決意したのでした。


 さてさて。
 エクストリーム体重測定ということだったのですが、「で、結局、何キロやせたのよ?」っつーのが気になりますよね?
 ということで、登山当日の朝に自宅で計った体重と、下山の翌日の朝の体重を比較してみましょう。
 八合目で計ったときには、1.9キロほどヤセたハズなのですが…。
 登山前の体重が93.4キロ、体脂肪率30.2。
 下山後の体重は93.6キロ、体脂肪率30.0%!
 って、ちょ、太っとるがな!

 同じ程度にデブなヒトならおわかりかと思いますが、この程度の体重の変化はハッキリ言って「誤差」の範疇で、ほぼ変化なし、と。
 結論としては、普段運動しないヒトが急に運動するとヤセるんだけど、それは一時的なもので、翌日になると戻るぞ、と。


 やっぱし、健康は日々の生活の積み重ね。
「登山の荷物が重い!」とか言ってないで、いまからちょっとずつダイエットして、あらためて富士山登頂に再チャレンジしようじゃないか、などと思っているワタクシなのでした。

追記

 標高高いと体重計は軽く表示されるかもw 誤差の範囲内かも知れませんが。
というご意見をいただきました。
 調べてみると、標高が高い場所では重力が弱くなるみたいですね…。重力補正がうんたらかんたら。
 んで肝心の、富士山八合目の重力がどうなのか?っつー話は、ググってもよく分からないのでした。
 次回富士山頂チャレンジの時は、2リットルのペットボトルを持って行って重さを計り、重力補正を行ってみようかな?
 いや、でもソレ、重たいからイヤだなぁ…。
 でも持って行ったほうが、ネタ的には面白いよね…。うーむ。

富士山に登ったら何キロやせる?

  1. エクストリーム体重測定
  2. いきなり下るぞ富士登山
  3. 遙かなる富士山頂
  4. →で、結局何キロやせたのよ?