ーOOO-ケルヒャーの洗浄機でも洗い流せぬ汚れとは?…日本橋クリーニングプロジェクト

日本橋の歴史


 日本の国道の起点、日本橋
 その歴史は、江戸の街の歴史と共に歩んでいます。
 そもそも徳川家康が江戸に幕府がを開いた時に、モノ・ヒトが江戸に集まるようにするために日本中の物流網の整備がはかられ、その起点は日本橋と定められました。
 日本橋は道路の起点であり、かつ川のそばにあったので、様々な物資が陸路や海路を通って日本橋に集まりました。当時の日本橋界隈には市場が立ち、川を上ってきた船が魚を水揚げしました。この日本橋市場は後に移転して、現在の築地市場となっています。
 当時の日本橋は木造で、残念ながら現存していません。しかしそれがどんなものだったか、私たちは知らず知らずのうちに良く目にしています。現在の京都太秦の撮影所にある橋は、日本橋を模して造られたものだ、ということです。
 日本橋は木造だったので、何度も焼失しています。
 現在ある日本橋は19代目で、石の橋としては2代目になります。1911年(明治44年)4月3日に開橋した日本橋は、関東大震災にも耐え、戦火をくぐり抜け、東京の歴史とともに歩んできました。

 そして1999年には国の重要文化財として登録。来年2011年に開橋100年を迎えることになりました。
 日本橋の保存を考える「名橋「日本橋」保存会」は、この100周年を迎えるにあたり、日本橋の洗浄を考えていたのですが、ここで報知新聞社さんの紹介で、ケルヒャージャパンさんと出会うことになるのです。

ケルヒャーの歴史と「クリーニングプロジェクト」

 高圧洗浄機、スチーム式洗浄機などで有名なドイツのケルヒャー社は、そもそもストーブなどの暖房器具を作っていたメーカーです。
 その技術を生かし、高温高圧洗浄器具を造ったところ、コレが大ヒット。やがてケルヒャーは清掃器具の製造メーカーへシフトします。

 スチームや水圧で洗浄する装置の他に、回転式モップや、乗用の大型回転式モップ車まで、さまざまな洗浄器具を作っています。
 有名テーマパークの驚くような場所の清掃にも使われているというお話だったのですが、「来園者に夢を提供する場所の裏側で、どんなふうに清掃活動が行われているのか?ということを語るのは無粋ですから」ということで、この件に関する詳しいことはオフレコなのです。
 やがて、ケルヒャーは「清掃器具メーカーのケルヒャーができる社会貢献とは何か?」ということで、世界各地のクリーニングプロジェクトを開始。専門のスタッフがボランティアでさまざまな場所を清掃しています。ニューヨークの自由の女神や、リオデジャネイロキリスト像。日本では広島平和記念公園のモニュメント9体を清掃しています。
 過去のクリーニングプロジェクトでは、こんな事例があります。
 アメリカ歴代大統領の顔が並ぶマウントラッシュモア。過去に4社が清掃したけれど、その結果に満足いかず、ケルヒャーに白羽の矢がたちました。
 ケルヒャーでは様々な洗浄方法を検討。山の頂上に発電機と大量の水をヘリコプターで運び、温水スプレーで洗浄する手段を取りました。
 このように、洗浄器具や洗浄方法までふくめて開発して提供できる点が他の清掃会社との大きな違いです。
 ケルヒャーによるクリーニングの結果に、地元の人たちは大変満足したということです。

   

実際の作業

 さて、日本橋クリーニングプロジェクトの実際の作業は、どのように進められているのでしょうか?
 作業にあたる担当者のトルステン・モーヴェスさんにお話をうかがいました。
 このトルステンさん、ケルヒャー唯一の洗浄スペシャリストとして世界でクリーニングプロジェクトを直接担当しています。また、その他に今回は美術修復師が2名作業に当たっているそうです。


 現場は塀に囲まれ、中が見えない状態です。今回は特別に内部の見学をさせていただきました。
 現場の中は安全第一、見学者も全員ヘルメットを着用することとなりました。

 
 現場の中から上を見上げると、ビニールの天井でおおわれています。
 これは雨よけであると同時に、作業現場の周囲に洗浄カスを飛び散らさないようにするための心遣いなのです。

 日本橋の清掃作業は何が難しいですか? と、トルステンさんにうかがったところ、
日本橋は、橋の上に首都高が走っていて、橋の上に橋があるのが珍しいですね。屋根をかぶったような状態なので、この部分では汚れが雨に流されずに降り積もっていきます。ですから、屋根をかぶった部分とそうでない部分で汚れ方が異なっていて、それぞれの状況を見極めることが大切なんです」
 ということでさまざまな洗浄手段が検討されましたが、基本的には、まず水で洗浄し、次にブラストをかけて汚れを飛ばすという手順が取られました。
 洗浄ガンはこんな感じ。
 なんつーか、ライフル…っつーかビームライフルのようですな。
 わたしたちが家庭用として使っているモノの2倍以上の水圧、水量を噴射することが可能だそうです。

 実際に触らせていただきました。
 手先で操作するのではなく、洗浄ガンの柄の部分をライフルのように肩にしっかり押しつけてキチンと構えないと、噴射力に腕が持って行かれます。とても強力です。

 そしてトルステンさんによる実際の洗浄の模様がこちら。

 じょわーっ!

 とにかくみるみる汚れが落ちていきます。


 このように強力な噴射も可能ですが、水の強さは自在に変えることが可能です。


 さらに、アタッチメントを交換して、ガンの長さや先端のチップも変えられます。


 汚れの種類や作業場所に応じて、適時適所で臨機応変に使えるというのが強みです。

 水で大まかに洗浄した後は、微粒子を吹き付けるブラスト作業で汚れを落とします。
 トルステンさんが手に持っているのがブラストガンです。なんというか、ビームスプレーガンみたいですな。
 そしてチューブの先に繋がっている画面右下の箱に入っている白い粉を吸い上げて、吹き付けるわけです。

 砂を表面にたたきつけるようにして表面を削り取るような作業ではなく、ごく弱い力で細かい粒子を何度も吹き付けてやるのだそうです。これらの微粉末を手に吹き付けても風を感じる程度でケガなどはしませんが、しかし周囲の部分の汚れは削り取られています。
 ブラストではメディアと呼ばれる微粒子を吹き付けてやるのですが、汚れの状態や橋の状態などを考慮し、50種類のメディアの中から2種類が選ばれました。
 排気ガスなどによる汚れは、炭酸カルシウムの白いパウダーで洗浄します。
 これは歯磨き粉にも使われている素材なのですが、普通は粒子がザラザラしています。粒子が丸いものを作っているメーカーは世界に一社だけなので、わざわざ取り寄せたそうです。
 
 汚れが黒く堅い層となった部分は、高炉水砕スラグを吹き付けます。高炉水砕スラグとは、汚泥や廃棄物などの焼却カスを高温で溶解させ、水で冷却した時に出来る微粉末です。廃棄物のリサイクルであると同時に均一な品質の粒子が得られることから、将来的にはコンクリートの原料として使われる可能性も秘めているのだとか。

ケルヒャーの洗浄機でも洗い流せぬ汚れとは?

 こうして現在日本橋のクリーニング作業は進められてるのですが、落とせない汚れがあるのだとか。
 たとえばその一つがこちら。
 水が溜まりやすい部分に汚れが溜まり、長い年月をかけてそれらが層になって固まります。
 すると水が、石と汚れの層の間に溜まります。これによって石がダメージを受け、中がボロボロとひび割れ、モロくなってしまうのです。

 モロくなった部分は補修作業が必要です。これは、ケルヒャーさんの洗浄作業では不可能です。橋の洗浄が終わった後も、来年の春まで橋の補修作業は続けられるのだそうです。
 もう一つがこちら。茶色い汚れです。
 これは東京に大空襲があった時に、焼夷弾が落ちてできた焼け焦げなのだそうです。
 焼夷弾が落ち、破裂して中から油が飛び出し、その油が燃えて出来た焼け焦げだそうです。

 地元の皆さんとの相談の結果、この汚れは単なる汚れではなく歴史の一ページであることから、消さずに残しておくことが決まったそうです。
 今回こうして汚れをクリーニングすることは、日本橋の、そして東京の歴史の記憶を浮き上がらせる結果となりました。みなさんも、ピカピカな日本橋に汚れを見つけたら、歴史の一ページを思い出してくださいね。
 日本橋はクリーニングと補修をすませると、あたらしい歴史を刻んでいきます。願わくば、これからは楽しく喜ばしい記憶を刻みたいものですね。




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