ーOOO-フェラーリのデザイナーがイナバ物置と組んでオフィスチェアを作った!…って、なにそれなにそれ?

 
 「100人乗っても大丈夫!」のイナバ物置のCMでおなじみの稲葉製作所
 その稲葉製作所がオフィスチェアを作った! というので大変驚いたのですが、それも「あの」フェラーリのデザイナーと組んで作った、というのでさらに驚かされてしまったワタクシです。
 これは見に行かなければなるまい! っつーことで直接デザイナーさんのお話をうかがいに行ってきたですよ。


 デザイナーの奥山清行さんは「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした男」として有名で、ケン・オクヤマの名で知られています。
 奥山さんはホンダ、GM、ポルシェと、名だたる自動車メーカーで研鑽を積んだのち、イタリアのデザイン会社ピニンファリーナに入社し、日本人初のチーフデザイナーに就任。
 マセラティクアトロポルテフェラーリ・エンツォをデザインしたそうです。

 現在は独立して、出身地である山形県を中心に、工業製品のデザイン活動を続けているそうです。
 で、そんな奥山さんが稲葉製作所さんから依頼を受けたのが、このイスのプロジェクトのはじまりです。奥山さんは依頼を受ける前に、まずは依頼主の工場を見学するのだそうです。そこで稲葉製作所の工員さんの熱心さや、技術力の確かさに驚いたそうです。

 そもそも稲葉製作所はオフィス家具の製造からスタートした会社なんですって。これまでにもオフィス家具やイスでグッドデザイン賞を受賞したことがあるのだそうです。実は他社の有名なオフィスチェアも作っているんだそうですよ。
 なかでも奥山さんが驚いたのが、稲葉製作所さんが自社の工場内で巨大なアルミの鋳造設備を持っていたということだったそうです。
 そこで今回のオフィスチェアXairでは、奥山さんはこのアルミの鋳造部品にこだわった、ということです。

 肩から伸びるアルミの部材に注目してください。
 左右の肩から伸びたラインが腰の部分で一つに交わり、さらに座面の裏側までを丸く包みこむ構造になっています。
 この部分全体がアルミ鍛造で作られ、つなぎ目のない一体構造となっています。

 肘掛けを見てみましょう。このイスは肘掛けがU字型の左右一体構造です。これなら肘掛けの下に支えの棒がいらないので、肘掛けの下の部分がスッキリしています。
 また、普通のイスは左右別々に肘掛けの高さを調節しますが、このイスは左右が連動して調整でき、ラクチンです。

 とてもすっきりしたこのデザインを実現可能にしたのは、鍛造の骨格部分がガッチリしているからなのです。
 この構造は、イスの骨格と肘掛けが背面の一点でしか交わらないので、接合部がヤワだとグラグラしてしまいます。骨格も肘掛けもガッチリしているから可能なシンプルさなのです。
 ところでオフィスチェアって、背もたれや座面を動かすレバーが出っ張ってますよね。
 しかしXairはレバーを廃し、座面の脇にボタンを組み込んでスッキリさせています。手探りで使いやすい位置にありますよね。


「みなさん考えてみてください、これは自動車のイスならばあたりまえの機能なんです。自動車のイスがなぜこうなっているか?それは、運転中でも手探りで調節しやすいようにです。だからわたしはこのXairもこのようにしました」
「考え抜いて『ここにこれがあるべきだ』という位置に機能や構造を描いていくと、デザインはシンプルになって、使いやすくなっていくんです」
 さまざまな自動車のデザインをしてきた奥山さんの説明に、参加者一同感心しっぱなしでした。
 さて、腰痛持ちの私としては、このイスがどんな座り心地なのが気になって。すごく楽しみにしながら座ってみました。
 うーん?
 どうも、ケツが沈む…。
 具体的にいうと、座面のヒザの裏のクッションが分厚くて、尻の部分のクッションが薄かった。
 これ、事務イスっぽく座るとヒザが持ち上がってお尻が沈み、腰骨が後倒して背骨が丸くなっちゃうから、長く座ると腰を痛くしそうだな…。
 座面を低くして足を前に投げ出し、背もたれを軽く倒して座るとちょっとイイ感じだけど。…これってクルマを運転してる時のポジションじゃないかなぁ? スポーツカーなんかだとお尻が低く沈むイスが喜ばれるものだけど。

 カーデザイナーだった奥山さんが考える理想のイスの形は、スポーツカーっぽい座り方をするためのイスで、オフィスチェアっぽい座り方には向いていない、ってことなのかな。
 ただ、このイスそれ自体の剛性や質感が高いのは事です。座面の部分が変えられたり選べたりするといいのではないかなーと思いました。
 あと細かい部分で気になる点は、肘掛けの高さがもう1〜2段階ぐらい高く出来ると良い気がします。ワタシは家でリープチェアを使っているのですが、これはアメリカのオフィスチェアなので、肘掛けがけっこう高くなります。逆に言うと、Xairを外国で売るには肘掛けがもうちょっと高く調整出来た方が良いんじゃないかなー?と思います。
 ちょっと突っ込んで意見を書いてみましたが、イスそれ自体は剛性が高く、機能的でとても使いやすいと感じました。


 さて、最後にちょっとだけイスの選び方を。
 自分が使ってるリープチェアは中古で3万円もするイスだったのですが、これを使ってから腰痛がずいぶんラクになりました。
 イスは長い時間座るものだから、身体にあったモノを選べば腰痛や身体の疲れが激減します。しかしその座り心地や使用感は人によって大きく違うものだから、買う前には座り比べをしてみることをオススメします。
 今回紹介したXairはどちらかというとオフィスチェアではなくて、身体をダラッと背もたれに預けて足を前に投げ出すような、たとえばホームシアターみたいなもので使うなら良いんじゃないかなーと思いました。興味があるかたは一度座ってみてくださいね。